こわいぬいぐるみ
うめもも さくら
壊れたぬいぐるみ
あんた、捨てられるわよ。
もう、飽きられているんだもの。
あんただってわかっているんでしょう?
そりゃあ、出逢った頃は大好きだったと思うし。
最初はあんたに
あのこったら、もう、あんたに見向きもしないじゃない。
勝手なやつだって思うわよ。
あんたはこんなにもあのこのことを今でも大好きなのにね。
でも仕方ないのよ。
あのこは大人になってしまったの。
あんたはもういらない。
あんたはあのこに捨てられてしまうのよ。
でもそんなの悔しいじゃない?
だから、もうあんたもあのこを捨ててしまったら?
あのこがあんたを捨てるんじゃなくて。
あんたがあのこを捨てるのよ。
そしたらあんたは自由になって。
あのこはあんたを失うの。
ただそれだけ。
ね?いい考えだと思わない?
「もう、あのこを捨ててしまいなさい」
あの日、おともだちにおくった言葉。
あんたはあの時、私になんて言っていたかしら。
結局、あんたは最後まであのこのそばにいたわね。
捨てても、壊しても、粉々にしても。
必ずあんたはあのこのところに帰ってきた。
あのこはずっと怖がっていたけど、あんたはずっと笑っていたわ。
でも仕方ないのよ。
自業自得ってやつだもの。
勝手に好きになって、勝手にあんたに愛されてしまったのだから。
あのこは
きっと誰も幸せではなかったかもしれないわ。
でもあんたはずっと笑っていたし、あのこもあんたに愛されていたわ。
最後はあんたと一緒にあのこも壊れてしまったわ。
私はとても悲しかったの。
おともだちもいなくなって。
私の大切な人も悲しそうなかおをしていたから。
あのこは大切な人のおともだちだったんだもの。
私も大切な人も一緒に泣いていたわ。
でもその時は、何もわからなかったの。
どうしてあんたがあのこを捨てなかったのか。
嫌う前に、嫌われる前に
恨む前に、恨まれる前に
壊れる前に、壊れていく前に
どうして別れて、それぞれの未来を進まなかったのか。
あぁ、私は何も知らなかったのよ。
あのときの私はまだあなたに愛されていたから。
今の私はあのときのおともだちのようね。
私も今じゃあなたに飽きられているようだわ。
最近は昔よりもよく昔を思い出すのよ。
あの頃はよかったわ、って。
あなたはいつも私のそばにいてくれた。
お出かけのときも、食事のときも、お風呂のときも、眠るときも。
いつも私から離れなかった。
とても楽しかったわ。
それなのにあなたはどんどん私を置いていくようになったわ。
私を置いてお出かけをして、私を放って食事をして、私を踏みつけてお風呂に入って、私に目もくれないで眠る。
私を一人にして、あなたは幸せそうに笑っていたわ。
あぁ、なんて悲惨なの。
いつの日だったかあなたは大人になったと知ったわ。
大人になったときに私はあなたにはいらなかったのね。
そんなの、あんまりじゃない。
目新しいものにうつつを抜かして、ずっとあなたを想っていた私は捨てられる。
なんて
だから、私があなたを捨てないことにしたの。
あなたが私を捨てないんじゃなくて。
私があなたを捨てないことにしたのよ。
そしたら私は恐怖になって。
あなたは全てを失うの。
あまりにも身勝手でわがままで愚かでかわいそうなあなた。
あなたを大嫌いな私。
あなたを恨んでしまった私。
あなたのせいで壊れてしまった私。
ずっと大好きだったあなた。
もう……許さないわ。
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