UFOキャッチャー
味噌わさび
第1話
「おい。お前、いつ頃からここにいるんだよ」
俺は誰かに話しかけられているようだった。俺はそちらの方に顔を向けずに返事をする。
「……さぁ。もう忘れちまったよ。大分昔だってことはわかるけどな」
「大分昔、か……。ふっ。俺もかなり昔だな。まったく……いつになったらここから出られるのかねぇ」
俺と、俺に話しかけてきている奴は、一定程度の広さの箱状の場所に閉じ込められている。
俺たちは自分後からではまったく動けないので、ただ、ここでじっとしていることしかできないのだが。
「……ん? おい。聞こえるか? あの音だ」
そう言われて、俺も耳を済ます。たしかに、ウィーン、という機械音が聞こえる。
おまけにそれと同様に、コミカルな音楽も聞こえてくる。
「あ」
と、俺に話しかけてきた奴の声が聞こえてきた。奴の頭部は、機械のアームのようなもので掴まれている。
「お、おぉ……これで、外に出られるらしいな」
「……いや。まだわからないぞ」
「は? どういうことだ?」
「……俺も一度、ソイツに掴まれたことがある。確かに運が良ければ外に出られるが――」
俺が最後まで言い終わらないうちに、奴は頭部をアームに掴まれたままで持ち上げられていった。
そう。たしかにアームに持ち上げられ、掴まれたままならば、外に出られるのだろう。
しかし……そう簡単にはいかない。
「うわぁぁぁぁぁ! な、なんでだよぉぉぉ!」
絶叫しながら怨嗟する声が聞こえてきた。そして、ボスンというにぶい音。
おそらく、奴がアームから落ちたのだろう。
……まぁ、ここのアームの設定、弱いからなぁ。
「あ~! もう一回やるかなぁ~?」
透明なガラス窓の外から、悔しそうな声が聞こえてくる。
もう一回……確かにやれば上手くいくかもしれない。
だけど……そう簡単に上手くいかないのが、UFOキャッチャーなのだ。
だからこそ……俺達みたいな、それなり大きいサイズのぬいぐるみは、いつまでも、取り残されたままなのである。
UFOキャッチャー 味噌わさび @NNMM
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