KAC20232 ロンド

白川津 中々

 十になった頃、誕生日にテディベアを貰った。

 茶色い毛と黒い鼻のありふれたデザインにはありふれた愛らしさがあり、ありふれた喜びを私に与えた。私はテディベアにロンドと名付け、何処へ行くにも連れて歩き、毎日毎日話しを聞いてもらった。気が付けばロンドは唯一の友達となって、私を支えてくれていた。



 ある時私は学校で酷い事を言われた。悲しくて、腹が立って、でも言い返せなくて、どうしようもできず俯いて家に帰ると、ベッドに座るロンドに話を聞いてもらった。

 慰めてほしい、味方でいてほしい、ずっと一緒にいて、頭をなでてほしい。そんな気持ちが涙となってロンドを濡らした。声が枯れ、目が溶けてしまいそうなくらい泣きはらして、ずっと、ずっとロンドに向かって私は話し続けていた。



 けれどロンドは私に何も言ってはくれなかった。プラスチックの瞳でただ、じっと、私を見ているだけだった。



 そう思った瞬間、ロンドがただのテディベアに見えた。友達でもなんでもない、布で形作られたゴミが、目の間にあった。ロンドは私を助けてくれない。何も話しかけてくれない。図々しく私のベッドに陣取るただのぬいぐるみでしかなかった。



「裏切った! ロンドは私を裏切った! 」



 私はそう叫ぶと、立ち上がって机の引き出しにあるハサミを取り出し、ロンドを切り裂いた。ザクザクと刃を入れていくと所から白い綿が飛び出し、クマの形が崩れていった。今まで友達と思っていたのに、ずっと一緒にいたいと思っていたのに、裏切られたと思うと、もう、憎しみしかなく、何もかも嫌になって、私はロンドを、ロンドだったものを、小さく、小さくなるまで、切り続けた。


 そうして私の部屋から、心から、ロンドがいなくなった。友達が、いなくなった。私の話を聞いてくれる、ぎゅっと抱きしめて一緒に眠ってくれる友達が、私のロンドが、綺麗さっぱり、ゴミになって、消えてしまった。


 私は今も一人で寂しく、ずっと孤独で、孤独で、孤独で……

 ロンドは、友達は、もう、何処にもいない。


 


 

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