マント
貴族風の男は不機嫌そうに書斎に入ると、手に持っていた書類を机に叩きつけました。そして執務用の椅子に腰を下ろし、散らばった書類を忌々しげに見つめます。
(何が凶作だ!怠け者共の言葉を真に受けおって――そもそもアイツらも税収の上前をはねてるに違いない!くそっ、どいつもこいつも!)
男の背後にあるカーテンが静かに揺れます。
(密告制度もうまく機能せんようだが、恐らく農民とアイツらがグルになってるんだろう……なんとかして証拠を掴んで)
大きく椅子にもたれ掛かった瞬間、男は何者かに口元を押さえられました。
「んんっ?!」
首元に火傷のような痛みを感じると、男は二度と言葉を発することができなくなりました。
暗殺者はダガーの血を拭き取ると、侵入に使ったロープを伝って庭へ降り、足早に屋敷をあとにしました。
風のように農村内を駆け抜け、やがて郊外にある粉ひき小屋まで到着すると、暗殺者はその中へと身を隠しました。
「――流石だな、アニマ」
窓の外から別の男の声が聞こえます。アニマは別段気にすることもなく羽織っていたフード付きのマントを脱ぐと、床に置かれたボロボロのバックパックに押し込みました。
「カネは袋に入れておいた。ご苦労さん」
その言葉を最後に窓際から男の気配は消えていました。
アニマはバックパックを
◇
アニマが街に到着したのは早朝でした。
入口付近で訳知り顔の男に馬を託すと、アニマは街の中心部に向かって歩き始めました。
しばらく歩いていると、アニマは家の窓から呼び止められます。
「ブラコンじゃない。こんな早朝にどうしたのさ?」
声の主はカミラでした。
「こりゃ、アネさん。お早うさんです」
ブラックコンドルはいつも通りの卑屈な笑みを浮かべた。
「なーに?また賭場からの朝帰りかい?少しは真面目に働きなさいよ」
「ヘへへっ、アネさんにはかないませんや」
万屋チェーン正直堂【商品目録】 一二三 五六七 @kkym-yagidokusen
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