バックパック

「ねぇ、いい加減それ買い換えたら?」


 薄暗い洞窟内で、カミラは先を歩くブラックコンドルに言いました。


「何です?」


「あんたが背負ってるその袋よ。もうボロボロじゃないのさ」


 カミラの言う通りブラックコンドルの背負い袋は劣化が酷く、至るところに変色や修繕の跡が見て取れました。


「へへ、こいつは俺っちの大事な戦友でしてね。愛着があってなかなか手放せねぇんですよ」


「ふーん、それも程度問題だと思うけどね」


 カミラは半ば呆れたように縫い後だらけの背負い袋を見つめました。


「こいつはあっしの生まれ故郷でしつらえたモンでしてね、使い勝手がすこぶるいいんですよ。ここいらの店で売ってる背負い袋じゃこうはいきませんや」


「背負い袋なんてどれも一緒でしょ?」


「いやいやアネさん、背負い袋を馬鹿にしちゃあいけませんぜ。いいですかい――」


 それからしばらくの間、ブラックコンドルの背負い袋談義が続きましたが、まるで興味の無いカミラは適当に聞き流していました。



「と、いうわけでしてね。素材1つとっても――」


「ねぇ、いくらでも詰め込める背負い袋があったらどうする?」


「え?そりゃあ、そういう魔法の品があるってのはウワサに聞いたことはありますが」


「私、一応持ってるけど」


「そりゃすげぇ!今度出かけるときはぜひ貸してくださいよ」


「いいけど――まぁ、あんたなら大丈夫か」


「へへ、信用してもらって光栄でさぁ」


「あぁ、そうじゃなくてさ、油断してると飲まれちゃうのよね」


「――飲まれる?」


 ブラックコンドルは足を止めると、怪訝な顔で振り返りました。


「そう。その袋意思を持っててね、隙あらば背負ってる人間を飲もうとするのよ」


「飲まれたらどうなるんで?」


「さぁ?聞こうにも出てこれた人間がいないからね」


「アネさん……それ、しまった物はちゃんと取り出せるんですかい?」


「いや、無理無理。手を突っ込むなんて自殺行為よ」


「……やっぱり、あっしはコイツで十分でさぁ」

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