第3話
「ただ、廃校を回避する手段が一つだけあって、六学園間での対抗戦に勝つことが出来れば、この学園の存続価値が認められ廃校が取り消されるそうです」
「そんな妄言信じるだけ無駄だ。都合が良すぎる。リップサービスだろ」
「真偽がどうであれ、わたし達はそれに縋るしかありません。しかし、そもそも無理難題です。メンバーも全然集まっていませんし・・・・・・」
「そりゃそうだろ。砂漠で金探すようなもんだ」
対抗戦は毎年行われる六学園間での競技大会の事を指す。五人のメンバーを選抜し順番に能力を用いた一対一の勝負を行う。先に三本先取した方が勝つというルールだ。
それぞれの学園が選ぶ五人は基本的に各学園で最も能力の扱いに長けた五人である。そのため前提として数字が小さい学園が圧倒的に強く、事実ここ五年ほどは一条学園が優勝旗を独占している。
「貴方の事を少し調べました。この時期に来る転入生という事で少し気になって。それで、貴方が一条学園に在籍していた昨年、一年生であるにもかかわらず対抗戦メンバーに選ばれた生徒だと知りました」
「そりゃどうも」
溝畑はあっけらかんとした様子で呟いた。
懐かしい過去の記憶が脳裏をよぎった。優勝の喜びを分かち合う自分とチームメンバーの姿。だが、もう過去のものだ。
「転入早々無茶なお願いだという事は重々承知しています。しかしもう猶予がありません。対抗戦のメンバーに入ってもらえませんか? 貴方がいてくれれば」
「勝てるって? ・・・・・・どうだろうな」
溝畑の返事に学恋は顔を曇らせた。
「オレ一人出たところでどうにもならない。最低でもオレ以外に四人必要だ。他にいるのか? 物好きな奴が」
溝畑の問いかけに学恋は暗い顔をさらに歪めながら呟いた。
「・・・・・・一人だけです。期限までもう三週間もありませんが、揃う気配はありません」
「お前は? 出場しないのか?」
「いえ・・・・・・。わたしは役に立ちませんから」
「へぇ」
溝畑が学恋を凝視すると、彼女はバツが悪そうに顔を逸らす。
「オレが出るのは別にいい。が、目立つ事は避けたい。ただでさえここの教師のオレに対する印象は悪い」
「そういえば、暴力事件を起こしてここに来たんでしたわね」
学恋は一歩後ろに下がり、溝畑と距離をおいた。
「表向きは。・・・・・・出場に関しては考えておく。案内どうも」
「いえ・・・・・・」
溝畑は軽く手を振ると、玄関へと向かう。
学校を出た時には既に夕日には影が差し始め、自転車のライトが目立ち始める時間帯になっていた。溝畑の帰路に着く足取りは重く背負っているリュックもずっしりと感じる。
『災難は立て続けに降りかかるもの』、そんな言葉はただの迷信に過ぎないと思っていた。しか現実は非常だ。
六堂学園の廃校、昨年までならその言葉を漫然と聞いていた事だろう。しかし今は違う。傍観者ではなく当事者なのだ。現状を打破しなくてはならない。学恋には煮え切らない返答をしたが、溝畑は対抗戦に参加するつもりだった。
ここで能力者人生に終止符を打つわけにはいかない。
問題は対抗戦で勝つにはメンバーの数が足りないこと。五人集まらない限りそもそも試合にすらならない。溝畑自身と学恋が口にしたやる気のある生徒が一人、合わせて二人が埋まっているわけだがあと三人工面しなければならない。
問題は山積みだ。六堂学園に通う生徒は他の学園の生徒よりも劣っている。能力の制御すら上手くできない者やそもそも既に能力者としての未来を捨てたものも多くいる。
そんなはずればかりの生徒の中から他の学園の生徒と肩を並べられるような、一芸ある生徒を探さなければならない。
「・・・・・・ちっ」
小石を蹴り飛ばしながら溝畑は一人悪態を吐く。
前途多難、泣きっ面に蜂。あまりの理不尽さに乾いた笑いが出た。初めて通る道を堪能しながら寮へ向かう最中、溝畑の視線はある一点に留まった。
寮周辺にある各学園ごとに設けられた練習場。大きな体育館のような建物では日々能力の練度を高めたいといった向上心を持つ生徒が自主トレに励んでいる。一条学園にいた時は毎日のように大勢の生徒が集い、練習には予約が必要になるくらいだった。
溝畑が興味を持ったのはそこが六堂学園にあてがわれた練習場だったからだ。六堂生の中にも危機感を持って自己研鑽に励む者がいるらしい。最も、他の学園の生徒が無断使用している可能性も捨てきれないが。
寮へと引き上げようと考えていたがなぜか目が離せなかった。何かに誘われるように溝畑は練習場の重い扉を開いた。
能力バトルはインクの染み @kokunoyutu
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