ぬぬいぬいぬい

水乃流

ぬいぬいのぬいめ

 地球は狙われていた! 

 彼らは、虎視眈々と人類の隙を伺い、そしてついに地球侵略を開始した。だが、戦いはあっという間に収束、人類は抵抗する意思を失っていた。なぜならば──宇宙人は、クマのぬいぐるみ、いわゆるテディベアの姿をしていたからだ。

 ちっちゃいモコモコしたぬいぐるみが近づいてきたら、人は果たして抵抗できるだろうか? いや、できない。

 やがて、一部のゲリラ組織を除いて、ほとんどの人類が宇宙人の──ぬいぐるみの奴隷となった。朝起きたぬいぐるみをきれいに拭き、ブラッシングする。落とさないよう大事に抱えて外出する。そして夜寝るときは、枕もとで子守唄を歌う。一部の男女のみが、ぬいぐるみ宇宙人に直接奉仕できる地位を得ることができた、

 その他大勢の人間は、ぬいぐるみ世界を成立させるため、碌な食事も与えられぬまま、馬車馬のように働かさた。彼らは常に飢え、疲労はたまるばかりであったが、すでに抵抗する気力は失われ、人類はもはやゆっくりと絶滅を待つだけの存在になってしまった。


 そんなある日、とある住居でひとりの女が、今日も主人であるぬいぐるみの毛並みを揃えていた時のこと。主人の背中に、小さな白い糸くずがついていることに気が付いた女は、か細い指で糸をつまむと、ゆっくり引っ張った。思いのほか、糸くずは長かったようで、そのままずずーっと伸びて……。


 プチン。


 糸くずに思えたそれは、ぬいぐるみの背中を縫い留めていた糸だった。糸という呪縛を解かれた綿が、ぶわっと勢いよく飛び出した。

 驚く女の前に、ぬいぐるみの中身──まるで、子供のいたずら書きのような──小さな棒人間とでも呼べばいいだろうか、そんな得体のしれないものが、ゆっくりと女を振り返った。

 女は、小さな悲鳴を上げると、手近にあった本でを叩き潰した。棒人間は、あっけなく潰れて死んだ。


 それからほどなくして、人類は勝利した。

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