デタラメなステップ【KAC2023/ぬいぐるみ】

湖ノ上茶屋(コノウエサヤ)

第1話




 ちょっと正座してただけなのに。

 ああ、足痺れてきたなぁとは思ったよ? だけど、こんなことになると思わなかったんだ。まるで、足の中で蛇が蠢いているみたいに、何かが駆け回ってる。

 いや、何かって言っちゃったけど、それがなんだか知っている。

 血だ。

 血流規制が解除されたぞ! と血が歓喜の舞を踊っているんだ。


「あ、ああ……」

『どうしたんです?』

「足痺れちゃって」

『へぇ。それは贅沢な悩みですね』

「贅沢じゃないよ。悶絶ものだよ」

『私も悶絶してみたいです』

「な、なんで?」


 まだ少しビリビリしているけれど、ゆっくりなら歩けそうだ。

 のっそのっそと棚に向かうと、目の前でにっこり笑っているタヌキのぬいぐるみ――タキちゃんをそっと持ち上げた。

 3歳の時に買ってもらってから、今までずっと一緒に過ごしてきた、大切な友だち。

 この子、あたしと時々テレパシーで繋がるんだ。


「悶絶してみたいの?」

『してみたいです』

「足で蛇が踊り狂うんだよ?」

『楽しそうです』


 タキちゃんの足には血が流れていないから、蛇が踊ることはない。

 どうすれば、タキちゃんを楽しませることができるかなぁ。

 

 蛇――

 ダンス――


 そうだ、体の中で踊ることがないのなら、体ごとダンスしてしまえばいい!

 

「ずんちゃっちゃ、ずんちゃっちゃ」

『え、ちょっと。何歳だと思ってるんですか』

「ん? 18」

『もう成人ですよね?』

「うん」

『いい加減、私から卒業したらどうですか? ぬいぐるみと踊ってる成人って――』


 デタラメなステップを踏みながら考える。

 卒業? そんなもの、学校だけで充分だよ。


「やだね。タキちゃんは私が死ぬまでずっと一緒!」

『え、愛が重い』

「コラ!」

『寒気がします』

「どんな感じ?」

『背筋で蛇が踊ってます』

「ふふふ。楽しい?」

『……ユキちゃんとずんちゃっちゃの方が楽しい、です』


 あたしたちは、疲れて足が棒になるまで、デタラメなステップで踊り続けた。


 


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デタラメなステップ【KAC2023/ぬいぐるみ】 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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