ぬいぐるみに残る記憶(KAC2023応募)
神木駿
記憶
私の部屋の隅にある小さなぬいぐるみ。
両親から貰った唯一の贈り物
私の記憶にいる両親はこのぬいぐるみと一緒だった。
二人は車の事故で一瞬だった。
笑顔だったはずの二人が痛みを感じて冷たく苦悶の表情を浮かべていく。
私だけがぬいぐるみと共に取り残された。
両親は冷たいのにぬいぐるみは温かいまま。
そのふわふわの感触に触れるだけで事故を思い出す。
でも両親から貰った唯一の贈り物を捨てることもできず、部屋の片隅に置いてある。
涙はもう流れない。流せない。
記憶の中にある二人を想像しても最後の表情しか浮かべることが出来ない。
二人の笑顔は私にとって大事なものだった。そのはずなのになんでかわからないけど思い出せない。
私の時計はあのときに止まってしまった。
止まってしまった時計は動かない。
私はその日ぬいぐるみに惹かれた。
目に映るそれがやけに光って見えた。
フラッシュバックする記憶に体が拒否反応を起こす。
震える手にあの日の冷たい感触と温かい感触が同時に蘇る。
それでも私は記憶を追い求めて手を伸ばす。
ふわふわの感触の中に歪な感触が一つ。
私はぬいぐるみの背中にあるチャックに手をかけた。
ぬいぐるみには似合わない硬い音を響かせながらチャックは開く。
そこにあったのは丸まった一つの写真と折り曲がった一つの手紙
私はその手紙を開く。
「これを見ている頃だとあなたはいくつぐらいになったかな?
ぬいぐるみを卒業しようとしてるのかな?
それはそれで寂しい気持ちもあるけど私たちにとっては嬉しい成長よ。
さて、本題に入るけどそんなに長くは書かないわ。
本当に少しだけ、伝えたいことだけを書いておきます。
私たちはあなたのことを愛してる。お父さんもお母さんもあなたが大好き
だからどんなにつらくてもそれだけは忘れないで欲しい
そしてあなたもそう思える人を見つけてください
母より」
丸まった写真には家族が笑顔で写っていた。
ぬいぐるみに残る記憶(KAC2023応募) 神木駿 @kamikishun05
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