ファミリーコント

さくらみお

ファミリーコント👨‍👩‍👦‍👦


 朝起きたら母さんの背中にファスナーが出来ていた。

 父さんにも、じいちゃんにも、妹のまみ子にも背中にファスナーが出来ている。

 昨日までそんなもの無かったのに。


「それ、何かの冗談?」


 俺は、母さんの背中を指差しては聞いてみる。


「何がよ?」

「だから、その背中の……」

「ええー?」


 母さんが自分の背中を見ようと体を捻るが、でかい尻がブリンブリン回るだけで、背中のファスナーは一向に見えない。


「父さん、母さんの背中にファスナーがついているよね?」

「ついているな。ワンピースのファスナーが」

「違う。そんなんじゃなくて、もっとでっかくて背中から尻まであるファスナーがあるじゃないか! ちなみに、父さんも、じいちゃんも、まみ子にもあるからな!!」


 すると父さんもじいちゃんも、まみ子も背中のファスナーを見ようとグルグル回りだす。


 ……俺の家族、バカばっか。


 俺はお互いの背中を見せた。しかし、全員首を傾げるばかり。

 どうやら俺以外には見えないらしい。


 俺は他の人もなのか、高校へ登校しながら外の人々を観察する。

 しかし誰もファスナーはついていなくて。


 つまり、うちの家族だけ背中にファスナーがついているのだ。



 ◆



 俺は授業中に考えた。

 あのファスナーは何なのだと。

 隣の席のガリ勉君にも聞いてみた。

 すると、ガリ勉君は俯いていてズレたビン底眼鏡のフレームをかけ直しながら言った。


「背中にファスナーといえば、ぬいぐるみでしょう!」

「ぬいぐるみ……!」

「はい~。中に何か入っているのでしょうね!」


 なんてこった。

 うちの家族ってぬいぐるみだったのか。



 じゃあ、中身は一体、何なんだ??



 ◆



 学校から帰宅し、家族が全員揃った夕食時に思いきって尋ねてみた。


「父さん、母さん、じいちゃん、まみ子。……みんな、実はぬいぐるみだったのか?」


 全員のハンバーグを突く手が止まった。


「俺……知らなかったよ。みんながぬいぐるみだったなんて……。中身は一体、なんなんだよ……!! 綿なのか……?!」


 すると、父さんが「ふふふ」と笑った。


太郎たろう、ついに我々がぬいぐるみだと気が付いたんだな」

「いや、朝から言っているじゃんか」


「では、正体を見せてやろう」


 と、父さんはファスナーを内側からジジジっと降ろした。


 すると!


 父さんのぬいぐるみの中から、まみ子が出てきた。このまみ子にはファスナーが無かった。

 つまり本物。


 そして母さんの中から本物の父さんが。

 まみ子の中からは、本物の母さんが出てきた。


「い、一体、これは……?」


「ファミリーコント・神々の遊びよ」


「ファミリーコント・神々の遊び……?」


「暇を持て余した太郎へ、家族からお届けする渾身の一発ギャグだ!」


 と、父さん。


「お兄ちゃん、最近あんまり笑わなくなったねーって家族で話していたのよ」

「太郎に笑って貰おうと思って、企画したのよ」

「太郎、面白かったか?」


 ……なんて聞かれても、ドン引きの乾いた笑いしか浮かばない。なのに家族は「あ、笑っている! 良かった、良かったね〜」なんて和気あいあいと勘違いしていた、その時だった。



「ただいま~!」


 玄関の方からファスナーのじいちゃんが焼き鳥を持って現れたのだ。


「「「え?」」」


「お、おじいちゃん?!」

「お義父さん、どうして……?」


 驚く家族にじいちゃんは平然と、


「ぬいぐるみの中は息苦しいから、朝の時点で着るのを止めたんじゃよ」


「へ、へえ……」

「じゃあ……」

「今、ここでハンバーグ食べているじいちゃん(仮)は……?」


 みんなの視線がハンバーグを黙々と食べているファスナーのじいちゃんに向かう。


 ハンバーグをゴクリと飲み込んだじいちゃん(仮)。ニヤッと笑うとファスナーをジ、ジ、ジっとゆっくりゆっくりと降ろし始めた。





 ――これは家族が絶叫する五秒前のお話。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ファミリーコント さくらみお @Yukimidaihuku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説