死者の願い

ihana

第1話

 ガタゴトと自転車のカゴで揺られながら私は思う。


 今日で終わりか。まだ終わりたくないな。


 別に誰かのお手製品と言うわけでもなければ、オーダーメイドで作られたわけでもない。

 私は東南アジアで量産された安物のクマのぬいぐるみだ。

 探せばネットで同等品が見つかるだろう。

 誰が埃まみれの変色した私を欲しがるだろうか。


 最後にあるじには会いたかったな。


 小さい時から私を大事にしてくれた。

 けど、彼女が大学に上京してからはほとんど会えていない。

 実家にずっと放られていた私は、いつしかその存在を忘れ去られていた。


 最後に会ってから、どれほどの時がたったかももはや覚えていない。

 そして、長らく開くことのなかった押し入れの襖がようやく開いたと思ったら、軽く埃を払われて自転車のカゴに押し込められたのである。


 なぜこの自転車をこぐ少女はこんなに急いでいるのだろうか。

 そもそもこの少女は誰なのだろうか。


 清掃車に乗せられたわけではないから、捨てられるのではないのかもしれない、という淡い期待が頭をよぎる。


 けど、リユースに出すのならさすがに洗濯くらいはするだろう。

 むしろ、今日がゴミの日だったことを思い出して、大急ぎでゴミ捨て場に持っていっているという可能性の方が高い。


 嫌だな。

 まだ誰かに遊んでもらいたい。

 たぶん燃えるゴミだよね。

 やっぱり焼かれるのって熱いのかな……。


 はは。ぬいぐるみの分際のくせに、何考えているんだろう。



 ようやく目的地に到着した。

 煙突がある。


 やっぱりな……。


 少女が私を掴んで走る。

 向かっていった先には黒い服を着た人がいっぱいいた。


 そしてそこで――。



 私は主を見つけた。



 棺で眠っている。


「おばあちゃん、持ってきたよ。おばあちゃんが大切にしていたぬいぐるみ」


 そう言って、私を棺の中に入れていく。




 そうか……。

 そうだったんだ。


 でも、よかった。

 最期は一緒になれて。



 こんな焼かれ方なら悪くはないか。

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死者の願い ihana @ihana_novel

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