第13話

 あれから、サンドさんは呆気なく捕まった。


 デキウスさんが大立ち回りしたりとか、フレスちゃんが大暴れしたりもしたけれど、往生際悪く私たちに歯向かったサンドさんも、リジルが騎士団を連れて乗り込んできたからには、虚勢を張ることもできなくなったみたい。


 結局私の証言もあって、不正は全部暴かれてしまった。


 あわやお家取り潰しというところだったのだけれど、弟さんがきちんと告発しようとしていたのがプラスに働いたらしい。


 どうにか弟さんを当主に、男爵家として再スタートを切るのだとか。


 弟さんからも感謝されてしまった。


 濡れ衣を晴らそうとして、大喧嘩を売るマッチポンプだったような気もしないでもないけど……結果論だからね。本当はもっと穏便に……フレスちゃんに暴れてもらう予定だったし、あんまり変わらなかったかもしれないわね。


 まぁなんにせよ解決したから良かったとしましょう。細かいことはどうでもいいわ。


 デキウスさんは、貯金もあるし竜退治の仕事が来なくてやる気が出ないと、最近は私の家でぐーたらしてばかり。


 せっかくこないだは心身ともにカッコいいところを見せてくれたのに、最近はまた甲斐性無しの顔だけ男に戻っている。


 難しい依頼はあんまり来てほしくはないけれど、デキウスさんを働かせられるくらいのやつが来てくれたら助かるなぁ。


 さすがに、旦那がプー太郎というのは私の精神衛生に悪い。


 そして私は……。







「それでは、料金の方になりますが……」


 私はアストレア。ただのアストレア。


 自分でつけたレテという名前は涙と一緒に忘れてしまった。


 今日もまたレーベンハルト帝国の帝都の中央通りで、運命鑑定士という、占い師のパチモンみたいな商売をやっている。


 私の唯一の取り柄である『ひとの運命を見通す程度の力ブラフマータ』で、相談してきた人の進むべき道を示してやる仕事だ。


 カウンターではデキウスさんがやる気なさそうにこちらを見守っている。


 することがないなら、変な客が来たとき用に護衛をしろと申し付けたのだ。


 今日の依頼人は、剣士から魔法使いに転向したというミスリル級冒険者の男の子。


 彼のチャレンジは上手くいっているらしく、今度はそんな自分を支えてくれたパーティメンバーの女の子との恋愛について相談を聞いてほしいとのことだった。


 私に普通の恋愛が理解できるとお思いでか?


 まぁ、通り一辺倒のことは言えるし、少し前にちょっとした痴話げんかもしたところだから、タイムリーな話題ではあるわね。


「アストレアさん、ありがとうございます! 今日もまた視界がパーッと開けたような心持ちです! いや、前見てもらった時よりも今日の方が幸せ指数が高い気がしますね! なんででしょうか?」


 目をぱちくりさせて、カウンターの方を振り返る。


 そこには、蒼い瞳を優し気にこちらに向けるデキウスさんがいてくれる。


 目と目が絡み合って、2人で笑いあって、そんな穏やかな一瞬がただただ愛おしい。


 ああ、恋愛って、こういうことじゃない?


「誰かを幸せにするには、まず自分が幸せじゃないとだめだから、ですかね」


「アストレアさんは、今が幸せってことですか?」


 なんて野暮なことを聞くんだこの男の子は。


 今の私を見て、幸せじゃないと答える人間の眼は節穴ってレベルじゃないぞ。


 分からないようならばしっかりと見せつけてやらねばなるまい。


 私は立ち上がり、カウンターでだらけるデキウスさんの腕を取って抱きしめる。


 急な私の行動に男性陣はポカンとしているが、そんなんだからとんちんかんな恋愛観になるんだぞ君たち……。


 ま、それはそれとして。私の『幸せ』を自信を持って紹介させてもらおう。


「はい、私の運命見つけちゃいましたから!」




fin

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

捨てられ令嬢は運命鑑定士になりまして。みんなを幸せに導いていたら、運命の相手も見つけちゃったみたいです。 雨後の筍 @necrafantasia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ