縫榥神社ーぬいくるみじんじゃー

磯風

縫榥神社

 この神社には、沢山のぬいぐるみがくる。

 御焚き上げという供養のためだ。

 子供が大切にしていたが見向きもしなくなったからという軽い理由のものもあれば、亡くなった子供のためになんていう切ないものまで、すべてを受け取って炎にくべて想いを昇華する。


 普通の神社には、ぬいぐるみを持って行っちゃ駄目だ。

 ここは特殊な、ぬいぐるみだけを燃やす神社なのだ。

 だから木の人形とか、ぬいぐるみじゃないものは受け付けていないよ。


 御焚き上げするぬいぐるみを受け取るのは……ここ『縫榥ぬいくるみ神社』だけ。

 この神社には、なかなか辿り着ける人はいない。

 というか、人はここに来ることができない。


 ここに来られるのは、ぬいぐるみだけ、だ。


 そう、ぬいぐるみ達は自らここにやってくる。

 ぬいぐるみが、いつの間にか手元からなくなっていたことはないかい?

 家族が勝手に捨てちゃったってことも……まぁ、ないとは言わないが、大体はもうそこに居るべきでないと思ったぬいぐるみ達が勝手に姿を消しているんだよ。

 だけど、ここに来るのは消えたぬいぐるみのうちのほんの少しだけだ。

 全部のぬいぐるみ達が、天へ届けたい想いを宿してしまうことはない。


 だから、いらなくなったぬいぐるみを捨てたっていいよ。

 想いが残っているぬいぐるみは、全部ここに来る。

 来ないぬいぐるみ達は、ただの『物』だっただけだ。


 ただ……この間、困ったものがやってきたんだよ。

 御焚き上げで焚き上がらないぬいぐるみが、五つもあったんだ。

 なんで燃えないのかと思ったら、中に入ってちゃいけないものが入っていた。


 困るんだよなぁ……こういうのが一番。

 でも、なんでこれが入っているぬいぐるみがあるんだろう?

 ここには誰も来られないはずなのに……


 あ、よくよく見たら中のものも、切り口とか縫われているね……

 そうか、それで『ぬいぐるみ』っていう判断になっちゃったのかな。


 やれやれ……これはこのまま返却だなぁ。

 中身を抜いてしまうことは、ここではできないからねぇ。

 取り出してしまえばきっとこのぬいぐるみ達はまた神社に来そうだけど、このままじゃ燃えないよ。

 ここの炎では『本当のぬいぐるみ』しか燃えないからね。


 でもこれがあったところは、今はだぁれも居なくなってしまったみたいだ。

 人の物は確か、警察っていうところに届けるんだったよね。

 そしたら、本人に返してもらえるかもしれないから、そっちに送っておこう。




 返却したあのぬいぐるみ達がもう一度ここに来たのは、しばらく経ってからだった。

 ああ、よかった、中身は抜いてもらえたね。

 ちゃんと本人に返ったみたいだ。

 バラバラになってて使えなくなっていたみたいだったけど、警察ってところでちゃんと持主を見つけてくれたんだね。

 今度はここに来たぬいぐるみ達をちゃんと燃やして、天へと送ってあげられそうだよ。


 あれ?


 五個だと思っていたけど……六個あるね。

 中が同じように赤黒くなっているから……ああ、ひとつは縫われていないものが入っていたから、あの時ここに来ていなかったんだね。

 そうか、あっちにひとつあったから、すぐに持主が解ったのか。

 やっぱり人は来られないって解ってよかったよ。

 中身の方は……そうか、燃やさない人達みたいだね。

 そのまま土の中だ。


 今日も沢山のぬいぐるみ達が、想いを天に届けていったよ。

 燃え残りもなく、みんな。

 だから、安心して。

 人に対して想いを残したままのぬいぐるみなんて、いないから。

 ……ほとんど。

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