Happy Birthday

凪野海里

Happy Birthday

わんたんへ


 誕生日おめでとう。3月3日はキミの誕生日だってこと、毎年忘れたことなかった。

 なのに、今年は気がついたら3月3日になってて、なんだか実感が湧かなかったんだ。だからキミの誕生日だということを、当日に思い出してしまった。ごめんね。


 キミと出会って、20年くらいは経っただろうか。出会いは、母と一緒に行った100円ショップ。あの頃の私はまだオムツもとれていない赤ん坊だったそうだけど、あの日のことはよく覚えてる。棚に並ぶたくさんのぬいぐるみのなかで、キミは一際輝いていた。


 一目惚れだったんだ。


 茶色の縁がかかった黒色の瞳。引き結ばれた口。常に正面を向いてる顔に、抱き心地の良い大きさ。キミの全てが、私は大好きだ。


 けれど、長年色々な場所に振り回してしまったせいで、キミの口は出会った頃より形が変わって、体はやつれたようにぼろぼろ。何度腹から綿が飛び出して、その度に母に治療をしてもらったことだろう。

 それでもキミはずっと私の傍にいてくれた。


 私が旅行に行くときは必ず連れて行った。

 私が泣きたいくらいつらい目に遭ったときは、何も言わずに傍にいてくれた。

 小さい頃はトイレもお風呂も一緒で。

 今でもキミが隣にいれば安心して眠ることもできる。……寝相が悪すぎてたまにベッドから落としてしまうのは勘弁してね。

 きっとキミは私と過ごすことで嫌な思いもたくさんしたかもしれないのに。


 私が家をでるとき「いってきます」を言えば。


「いってらっしゃい」


 私が帰宅したとき「ただいま」を言えば。


「おかえりなさい」


 そうやって、言ってくれるような気がしている。


 ねえ、わんたん。

 私はずっとキミが好き。ずっとずっと大好き。私がどんなに成長してもキミが変わらず傍にいること。ただそれだけで私は充分励みになってるんだ。

 だからどうか、これからも私の傍にいてください。

 約束しよう。


 誕生日おめでとう、わんたん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Happy Birthday 凪野海里 @nagiumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ