うつわ

ゴオルド

第1話

「誕生日には、お人形がほしいの」


 そう言う娘のために、会社帰りにトイザらスに寄った。娘は「もしもパパが私のためを思って人形を選んでくれたら、考え直してもいい」と言っていた。少女特有の意味不明な妄想には付き合いきれないので、店員に選んでもらった。もし気に入らないのなら、あとで返品でも交換でも好きにすればいい。


「今日は娘の10歳の誕生日なんですよ」

「それはおめでとうございます」

 店員は声だけ愛想よく笑い、素早くラッピングにとりかかった。

 白いラッピングペーパーに包まれ、黄色いリボンをかけてもらった人形は、なにかのさなぎのように見えた。



「お誕生日おめでとう」

 紙の殻を破るようにして出てきた人形をみて、娘はため息をついた。

「これ人形じゃないよ。ぬいぐるみだよ」

「なんだって? 店員は人形だと言っていたのに」

 思わず口をついて出た言葉に、はっとする。

「店員さんに選んでもらったの?」

「違うよ、そうじゃないけど、ただ、ちょっとね」

「ふうん」

 娘は人形を持ち上げた。高い高いをするみたいに。小さな女の子の形に縫われた人形の足が、ぶらんと揺れた。

「ああ、そうか、布製で中にワタがつまっているものは人形じゃなくてぬいぐるみなんだな」

 人形というのはもっと固い手触りなのだろう。

「違うよ」

 と娘は言った。

「呪いのしろに使えるのが人形、使えないのがぬいぐるみだよ」

 俺は顔をしかめた。

「変な冗談だな。呪い? 誰を呪うって?」

「パパかな。それともパパの浮気相手かな。どっちだと思う?」



 気づけば俺は布製のふわふわになっていた。いや、ぬいぐるみに取り込まれてしまったのだ。


「ただいま」

 妻が帰宅した。

「ママ!」

「どうだった?」

「できた。でも、ぬいぐるみだから、そのうちパパの魂は消えると思う。だから人形にしてって言ったのに」

「そう。でもしょうがないわね」

「もう手遅れだもんね」

 二人は笑った。


<完>

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うつわ ゴオルド @hasupalen

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