そして僕は本物になった

イノナかノかワズ

そして僕は本物になった

 生まれて半年が経った頃。

 僕は、突然人間という冷たい匂いのする大きい動物によってお母さんと離れ離れにさせられて、遠くに置いて行かれた。


 雨が降った。

 雨に濡れた僕は動けなくなって必死に鳴きじゃくった。


 そして、傘っていう屋根が僕の上に降りた。


「ママ。猫のぬいぐるみみたい!」

「そうね。可愛いわね」


 暖かい匂いがする大きな動物、人間が二匹、いた。片方は小さな女の人間で、もう片方は大きな女の人間だった。


 二匹は少し睨み合うように話していた。


「ママ!」

「……分かっているわよね?」

「うん!」

「……分かったわ」


 そして僕は小さな女の人間と大きな女の人間に連れ去られた。


 暖かい水で洗われ、おいしいミルクをくれた。ご飯もあった。

 嬉しい気持ちになった。


「名前はどうしようか?」

「ヌイ! ぬいぐるみみたいだから、ヌイ!」


 どうやら、僕はヌイというらしい。

 また、小さな女の人間はゆいといい、大きな女の人間はママというらしい。


 僕は二人と一緒に過ごした。


 唯はよく僕を抱きしめる。

 ぬいぐるみみたいで、抱きしめると暖かくなるそうだ。僕も抱きしめられると暖かくになる。


 だけど、ぬいぐるみが何かは分からなかった。

 唯が僕とそっくりのフワフワした布を持ってくるまでは。


「どう、ヌイにそっくりでしょ。作ったの! 私が学校の間はこの子と遊べば寂しくないよ!」

 

 どうやら僕の弟らしい。

 

 それから月日が流れるにつれ、唯は僕の弟をいっぱい作った。

 僕は弟たちと一緒に唯にたくさん抱きしめられた。

 

 だけど、一生は無理だった。


 唯に小さな人間が生まれた時、僕は冷たくなった。

 抱きしめられても暖かくならない。


「ヌイじゃないよぉ! 暖かくないよぉ!」


 僕の弟を抱きしめて、泣いていた。


 

 Φ


 

「ママ! これ、これ買って!」


 小さな女の子が子猫のぬいぐるみを抱きしめていた。


「ヌイって名前! これ買って」

「ッ!」


 お母さんは驚いて泣いた。

 僕は本物になった。

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