KAC20232 ワタルのぬいぐるみ

星都ハナス

第1話 大きさは八センチ。

「ぬいぐるみを作って欲しいのね?」

普段、わがままを言わない彼がどうしてもを作って欲しいと完成図を持ってきた。


「まじで? 本当にこれを作って欲しいのね?」

「出来上がりの大きさは八センチくらいでお願いしやす」

「分かった。なるだけこのイラスト通りに作るから楽しみにしていてね」


 私は手芸店で肌色のフェルトと刺繍糸を買い、その日からワタルのためにひと針ひと針縫って、大きさ八センチのぬいぐるみを完成させた。


「ミナはん、ありがとう。期待以上の出来に満足でやんす!」

ワタルはそう言うと私が作ったぬいぐるみを抱きしめて大喜びした。


 全身肌色の体。長めの歯は銀色糸で刺繍した。細長い尻尾に綿を詰め胴体に縫い付けるのに苦労した甲斐があった。そんなに喜んでくれると私も嬉しい。


「背中に微妙なシワが寄ってるでしょ? それが一番大変だったのよ」

「ミナはん、ありがとう。ワシ、ここを触りながらいい夢見ますねん」

「は? いい夢見ますねんってどういうことよ?」

「抱きぐるみにするんでやんす。で、ワシの股間をスリスリ……」


 ワタルはその仕草をアホ顔でやってみせた。身長十センチの彼が八センチを所望したのはそういうことだったのか。こめかみがピキンとする私。


「ちょっと待った! そんな目的で使うなら返しなさいよ!」

 私は小さいオジさんのワタルからハダカデバネズミのぬいぐるみを奪い取ろうと必死になる。自分に似たぬいぐるみだ。股間を押し付けられるなんて言語道断。いや、恥ずかしすぎる。


「返さないでやんす! ワシはミナはんが大好きでやんす。毎晩、貴方を抱いて眠りたい。一緒にいい夢を見るでやんす!」


 バーコード頭のワタルがぬいぐるみを取られまいと泣きながら抵抗する。


「じゃ、大事にするのよ!」

ワタルは分かったと返事をして、いそいそとピンク色のジャージを着せキスをした。それを見た私の頬も同じ色になった。


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KAC20232 ワタルのぬいぐるみ 星都ハナス @hanasu-hosito

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