おなかのなかにおもいでをめいっぱいつめこんでぬいあわせたもの

秋乃晃

777円(税込)

 父親アイツの再婚相手である後妻さんの娘で、俺とは一切血の繋がっていない義理の妹・参宮一二三さんぐうひふみことひいちゃんと俺は近所の動物園に来た。


 小学校時代には遠足やら写生会やらで何度か来たけども、担任の後ろをついて行くだけでつまらなかったり、ニホンザルみたいな動き回る動物を描こうとして時間内に描き終わらずに中途半端な絵を提出するクラスメイトを小馬鹿にしたりと、いい思い出はない。俺はゾウを描いたよ。


 近過ぎて逆に行かないというのもある。地元の美味しい店を教えて、と言われて口籠もるようなもん。この質問、困るよな。自分のスマホで調べてくれ。


 二十歳過ぎてからひいちゃんと見て回る動物園は、昔訪れた時よりも数倍楽しめた。気になった動物の前で立ち止まっても急かしてくる人がいないし。


 ひいちゃんはカワウソをいたく気に入った。人間が水中トンネル――水槽と水槽を繋ぐ透明のパイプ。泳いで移動する姿が見えるようになっている――を用意しているのに、全く使わないところがいいらしい。俺はプレーリードッグの立ち上がったり座ったりのちょこまかとした動きを見ていて、誰に怒られるわけでもないのだからハクナマタタ心配ないさの精神で生きていればいいのに、と思った。


 オトナの京都旅が流行るのも頷ける。修学旅行みたく、特に興味もなく半強制的に行くよりはさ。目的地があって、行きたい人と一緒に行けるほうが楽しいよな。


「おにいちゃん、あれ!」


 るんるんで弁天門へと向かっていくひいちゃんの前に、土産物屋が立ちはだかる。指差す先にあるのはウサギのぬいぐるみだった。カワウソじゃあないけどいいの?


「ほしい!」


 目を輝かせている。ひいちゃんがいいのならいいけど、本当にカワウソじゃあなくていいの? あとで「やっぱりカワウソがいい!」って言われたらレシートとぬいぐるみを持っていけば取り替えてもらえるのかな。


「わかった。買ってあげるよ」

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おなかのなかにおもいでをめいっぱいつめこんでぬいあわせたもの 秋乃晃 @EM_Akino

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