席替え、そして……

「よーしホームルームを始めるよ」


 近藤先生の掛け声で先ほどまで喋っていた奴らが席につく。

 将仁は……若干足が震えてねえか?そこまで怖くないだろうに。近藤先生は、ナイスバディの美人なんだから。むしろご褒美なまである。……因みに既婚者らしい。


「……これで朝の連絡事項は終わり。ではなくて、席替えをしたいと思いまーす」

「「「おおー」」」

「因みに席は先生がランダムで組みましたー」

「「「ええー」」」


 席替えか。確かに入学から一週間だしちょうどいい時期ではあるのかもしれないが……三枝さんの隣にでもなろうものならめんどくさい事になるのが目に見えてる。具体的に言うと男子どもの嫉妬な。


 となると、俺がするべきは三枝さん以外が隣になることを祈ること!


 おお。イエスよ。我を救いたまえ!


 △▼△▼△


「よろしく。天宮君」

「よ、よろしく三枝さん」


 キリストぉおお!!


 メシアは!メシアはどこに行った!?なぜ俺を見捨てたんだ!ほら、見ろよ!周りの男子たちからの視線に射殺されそうなんですが!?あ、テメエ将仁ニヤニヤしやがって!覚えてろよ!


「天宮くんとはまだ話した事なかったから隣になれて嬉しいな」

「あ、ありがとう」


 ま、眩しい!いい人すぎて眩しい!俺は今すぐサングラスが欲しい!……まぁさっきまで色々言ってたけど、別にいい気がしてきた。恋愛対象ではないけど目の保養にはいいし、本人もいい人そうだし、それに中間テストが終われば席替えするはずだし


「みんな席を移動できたね?じゃあこの席で一学期を頑張りましょう」


 せん、せい?なんで?なんで一学期ずっとっていう発想に至ったの?俺の脳が理解を拒むんだけど!?ねぇ!?


「一学期の間よろしくね。天宮くん」

「はい。よろしくお願いします」


 え、エンジェルスマイルっ……!これで「お前と仲良くするつまりねぇーから」とかいえねぇよ!


 △▼△▼△


「…フ、フフ、フフフッ!」

「やめろ気持ち悪い」


 放課後、これからの学校生活に夢を馳せ……ダークサイドに堕ちていると将仁に貶された。酷い


「いい加減現実を受け入れろ。お前の一学期の平穏は崩れ去ったんだよ」

「やめろっ!俺に現実を直視させないでくれ!」

「フハハハ!勇者燈也よ。現実逃避とは情けない!」

「色々混ざっててわかんねえよ」


 うん。やっぱりこいつは愉快で優しい奴だ。いきなり貧乳について演説し始めたりする変人ではあるけど。きっとこれも俺の気を紛らわすために言ったんだろう。


「ありがとうな」

「ん?いきなりなんだよー。なんだ?デレか?ついに燈也がデレたか?」

「なんでもねぇよ」


 ニヤニヤしながらこっちを見てくる将仁に気恥ずかしくて目を背けてしまう。やっぱり、こういうもんは口に出すもんじゃないな。


「なんだよー言っちまえよー」

「…… 将仁お前通り過ぎてるぞ」

「え?」


 本当は一つ前の曲がり角で曲がらないとこいつは家に帰れない。そして俺をからかうのに夢中で通り過ぎた事に気づかず通り過ぎてしまったという訳だ。さあ、かえりたまえ!


「めんどくせー」

「ハッハッハー!気づかないお主が悪いのだよ!」

「おーじゃぁなー。また明日ー!」

「………」


 俺の言葉を最後まで聞かずに行っちまいやがった……ちょっと寂しい。

 将仁にスルーされちょっとナイーブになった俺は、夕日に背を向けて保育園に向かって歩くのであった。


△▼△▼△


 数刻後、俺は幸春と手を繋いで帰路についていた。


「それでねー。紗希ちゃんが「女の人のおっ○いは揉むとする方もされる方も幸せになれる魔法の道具なんだよ」って言ってたんだ!」


 なるほど。幸春のおっ○い好きはここから来てたか。よし、お兄ちゃんは覚えたぞ。諸悪の根源は紗希ちゃんだな。


「そうかー。でも幸春はやっちゃダメだぞー」

「なんでー?」

「なんでもだ」

「わかったー」


 ほんと頼むぞ。俺は公衆の面前でおっ○い揉んですみません、なんて言いたくないんだ。


 そう思いながら、俺は空を見上げる……ああ、綺麗な空だ。思わず手を伸ばしてしまうような……手を伸ばす?待てよ。左手には幸春のバック、右手には幸春の手があったはず……


「どこ行った!?」


 大通りに走ってたらまずい!そう思って急いで辺りを見回した俺の耳に衝撃の言葉が飛び込んでくる


「おっ○い揉んでいーい?」

「えっと……だめかな?」

「えー。なんで?」

「なんでって言っても……」


 そしてそれを理解した瞬間俺は光になった。なんとしてでも止めなければならないという使命感に駆られて。


「申し訳ありませぇぇん!!」

「むごっ!?」

「え?え??」


 俺史上最速で追いつき、その口を塞ぎ、そのまま頭を下げる。すまないが我慢してくれたまえ。弟よ。


「本当にすみません!あとで、しっかり叱っとくので!」

「あ、はい。……その大丈夫ですよ?子供の言ったことですし」

「いや、でも」

「大丈夫ですから顔上げてください。それに、同じ学校の人に頭下げられるのはちょっと気まずいので」


 同じ学校?そう思いながら顔を上げるとそこには、


「天宮君?」

「三枝さん?」


 隣の席になったクラスの人気者がいた。


 俺、死ぬのかな?

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