クマのぬいぐるみと少女

月猫

マグのテディベア

「ねぇ、これ貰ってもいいかな?」

「えっ? やめなよ。供養に持ち込まれたぬいぐるみだよ。気味悪いじゃん」

「そんなことないよ。ほら、とっても可愛い。それにこれ、マグのテディベアだよ」

「マグ? 何? それって、高いの?」

「うん。安くても一万円以上するんだ。この子だと三万円くらいするかも……。 欲しいなぁ」

 美夜は茶色のテディベアを、うっとりと見つめていた。


「美夜、どんなに気に入っても持ち帰っちゃ駄目よ! ここに集まるぬいぐるみやお人形は、みんないわくつきの物ばかり。そんな物を持って帰ったら、呪われちゃうからね!」

 由香里は、美夜にきつく注意した。


「さぁ、元の場所に戻して早く帰ろう。帰って宿題やらなきゃ。臼井先生怖いんだもん」

「う、うん。そうだね」

 美夜はしぶしぶぬいぐるみを手離した。


 家に帰ってからも、美夜の頭からはぬいぐるみのことが離れない。

「明日。明日になると、供養祭であの子は燃やされてしまう! あんなに可愛い子なのに……」


 居ても立っても居られなくなった美夜は、お母さんに『忘れ物をしたから』と嘘をついてお寺に戻った。

 そして、こっそりとあのぬいぐるみを家に持ち帰ったのだ。


 部屋に籠り、裁縫セットを広げる。

「ごめんね、クマちゃん。ちょっと作り変えるね。このままだと、由香里にバレちゃうから」


 美夜はそう言って目玉を外し、裁縫箱の中にあった黒いボタンと付け替える。顔の印象がだいぶ変わった。それから、ぬいぐるみに青いベストを着せてみた。猫のぬいぐるみに着せていたものだが、思った通りサイズがピッタリだった。


「ふふ。これで、由香里ちゃんにバレない」

 美夜は、すっかり別なクマへと変身したぬいぐるみを強く抱きしめた。




 一週間後のこと。

「由香里、12歳おめでとう。これ、私からのプレゼント」

 美夜は、由香里にピンクのリボンのついた袋を渡した。

 

「ありがとう、美夜」

 由香里は、リボンを解き袋を開けた。中から出てきたのは、青いベストを着たクマのぬいぐるみだった。

 由香里は、それがあの時のマグのテディベアだと気がつかない。


「わぁ、可愛いクマさん。もしかして、手作り?」

「そうよ。だから、大事にしてね!」

「うん、ありがとう。今夜から、この子と一緒に寝るね」

 そう言って由香里は、美夜からのプレゼントを抱きしめた。


 その様子を見て美夜は、ニヤリと微笑む。

 

 由香里は、魔具のテディベアにどんな風に呪われちゃうんだろう? 

 楽しみだな~、ふふふ。

    


                完

 

 



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クマのぬいぐるみと少女 月猫 @tukitohositoneko

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