祈りはやがて願いとなる

華ノ月

祈り、そして、願い……。

「あらあら、ほつれているわ……」


 私は大切なぬいぐるみがほつれていることに気付いて、引き出しから裁縫道具を引っ張り出した。


 針に糸をセットしてほつれた部分を縫う。


 ぬいぐるみをよく見ると、所々縫って直した跡がある。


 私にとってこのぬいぐるみはとても大切なもの。


 大好きな夫が遠い異国に行く前に、寂しがらないようにプレゼントしてくれた。




燈子とうこは寂しがり屋だからな。寂しくなったらこのぬいぐるみを俺だと思ってぎゅーって抱き締めるといいよ」


 夫はそう言ってテディベアを渡してくれた。


 私は行ってしまうのが悲しくて泣いてしまうと、夫は優しく頭を撫でて言葉を綴る。


「大丈夫。仕事が終わったらすぐに帰ってくるから。必ず燈子の元に帰ってくるからな。だから、泣かずに俺が帰ってくるのを待っていてくれよ……」


 夫が優しく言う。


 仕事だから仕方ないが、結婚して一緒に暮らし始めてから初めてのことだった。


「帰ったら燈子のお得意のハンバーグ、作ってくれよ!あっ!でも、前みたいにハート形は恥ずかしいから、普通の形にしてくれな……」


 夫はそう言って、顔を少し赤らめる。



「じゃあ、行ってくるよ!!」



 夫はそう言って異国に行った。


 最初は寂しかったが、夫の言葉を信じて、待っていた。


 

 でも、事態は一変した。



 夫が仕事で行った異国で、大きな地震が発生。


 死者、行方不明者共に甚大な被害が出たらしい……。


 夫に連絡を取りたくても、取れる手段がない。


 なぜなら、この時代に携帯電話というものはない……。


 ニュースで地震を知り、私はしばらく震えていた。


 眠れない夜が続いた。



 『夫は生きているの……?』


 

 不安が頭をよぎる。


 でも、約束した。


 必ず私の元に帰るって……。




 私はほつれたところを綺麗に縫い直した。


 彼の帰りを待ち続けて、私はお婆さんになった……。


「今日の夕飯はハンバーグを作りましょうかね……。」





 私は彼の「写真」にそう問いかけた。

 

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祈りはやがて願いとなる 華ノ月 @hananotuki

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