君の全てが知りたい
伊崎夢玖
第1話
ただ見ているだけでよかった。
それだけでよかった――はずなのに、いつからか君の全てが欲しくなった。
もうこの思いは止まらない。
止めるわけにはいかない。
君の全てを手に入れるまでは…。
ようやく届いた、ビンテージもののクマのぬいぐるみ。
お世辞にも綺麗とは言いにくいし、かわいいとも言いにくい。
が、この計画のための最重要アイテムである。
学生時代からずっと恋している人がいる。
その人に思いを伝えることはしないが、いつ・どこで・誰と・何をしているのかは気になる。
『自分以外の異性と一緒にいる』なんてことないはずだが、この世に絶対はない。
それを確認するためにも、その人がやっているSNSは全てチェックしている。
そこで、つい先日SNSでクマのぬいぐるみを紹介していた。
それはおばあ様から誕生日プレゼントで幼い頃にいただいたという今は販売していないレアな代物らしく、コレクターの間では高値で取引されていた。
(これを手に入れれば、SNSでは知り得ないいろんなことを知ることができる…!)
自分が思っていた以上の高値に一瞬戸惑ったが、自分の愛はその程度で揺らいだりはしない。
即断即決。
購入を決めた。
そして、今に至る。
SNSの写真と同じもの。
丁寧に箱から取り出し、背中の縫い合わせを解いていく。
中の綿を半分取り出し、取り出した部分に小さな
見る人が見れば、この箱の正体は一発で見抜くに違いない。
箱が入っていることがバレないように、取り出した綿を再度詰め直す
そして、違和感のないように縫い合わせていく。
今まで手先が器用でいいことなんかなかったが、人生で初めて手先が器用でよかったと今ほど思ったことはない。
我ながら、うまく縫い合わせられたと思う。
あとはコイツと共に愛する人の家に向かうだけ。
引っ越し業者なんて、客から理不尽なクレームを、上司や先輩からパワハラを受けるだけのクソつまらない仕事だと思っていた。
でも、よく考えてみれば、ある意味素晴らしい仕事じゃないか。
合法的に相手の家に立ち入ることができるんだから。
さて、そろそろ仕事に行かないと…。
愛する人の新居に向かって。
君の全てが知りたい 伊崎夢玖 @mkmk_69
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