第58話「ジェネからサイへ」
休日、その日サイはジェネと共に街を歩いていた。
「楽しいかい?サイ。」
「う、うん……。」
屋台でアイスクリームを買い、それを食べながら街を歩く2人。
2人が何故こんな事になったのか、それは、サイが目覚めた1週間前に遡る……。
◇
「……ここは……?」
「病院だよ。」
魔力全開放の反動から解放されたサイは、街の病院で目を覚ます。
サイの傍には、彼が目覚めるまで毎日病院に通っていたジェネがおり、目覚めた彼の姿を見て安堵の表情を浮かべていた。
「無事に目覚めて良かった……。」
「ジェネ……ごめん、僕は君に勝ちたいが為に、使っちゃいけない魔力全開放に手を出して……。」
「あぁ。よくも私に心配をかけたな。だから、罰として私のわがままに付き合ってくれ。」
「罰……?」
◇
サイは、一体自分にどんな罰を与えるのか……その罰が、この「ジェネとのデート」である。
「私だって女の子なんだよ?こういう事をやってみたい年頃なのさ。」
「でも、ジェネは前世での年齢は……。」
「女の子です。」
「え……?」
「女の子ですが?何か?」
「はい……。」
2人は手始めにアイスクリームを食べた後、別の街からやってきたサーカス団のサーカスを鑑賞したり、服屋でジェネに似合う服を選ぶなりしてデートを楽しんだ。
2人は事前に母のキリマからお小遣いをもらっており、そのお金でデートを楽しんでいるのだ。
そして正午、お腹の空いた2人はファミリーレストランに行き、昼食を取る事にする。
「ジェネ、今日のデ、デートは楽しい?」
「もちろん。君とならどこだって楽しいよ。」
レストランで牛型モンスター、ストロングブルのステーキを食べるサイとジェネは、午前中のデートを振り返る。
ジェネはサイを気遣ってか、サイとのデートは楽しいと彼に伝える。
「ジェネと僕は出会ってまだ数ヶ月しか経ってないけど、この数ヶ月で色々な事があったな。」
「コラ、思い出にふけってないで目の前の私に興味を持ちなさい。」
「ご、ごめん。でもそういう事は、好きな人同士で言い合う物なんじゃ……」
「好きだよ。」
その時、サイは時間が止まったかのような感覚に襲われた。
ジェネの口から放たれたその衝撃的な一言は、自分に向けて言われたのかと、彼は一瞬戸惑い、再度聞き直そうとする。
「今、好きって……」
「二言は無いよ。食べ終わったし、行こう。」
「……うん。」
サイの疑問はジェネにあやふやにされ、そのまま食事を終えた2人はファミリーレストランを後にした。
2人のデートプランは行き当たりばったりで、サイは午後は何をしようかと街を歩いていたが、あるお店の前で彼は立ち止まる。
「さぁさぁ皆さんご注目!今からゴーレム決闘大会を開催!あと2枠余っているから、飛び入り参加したい人達はお早めにな!進行は店主である私、リバー・アメジンがお送りするぞ!」
そこはゴーレムの部品を取り扱うゴーレム専門店で、その店の前には小さな決闘舞台が置かれており、その店の店主はこれからゴーレム決闘大会を開くと大々的に宣伝していた。
「サイ、あれやるかい?」
「でも、僕達ゴーレム持ってないよ?」
「安心したまえ。ストレージボックス!」
ジェネがそう唱えると、彼女の目の前に黒い渦のようなものが現れた。その中にジェネが手を入れ、サイの愛機であるジェネシスタを取り出す。
「そんな魔法、いつの間に……?」
「こんな事もあろうかと、魔法創造で作っていたのだよ。」
サイはジェネの魔法によって助けられ、ジェネシスタを手にした彼はゴーレム決闘大会に出場する事を決意した。
店の前には大会に出場する人達と、それを見たい人だかりができており、一ゴーレム専門店が開催する小さな大会にしてはかなり盛り上がっていた。
「飛び入りエントリーしたのはこの少年少女!サイ君とジェネちゃんだー!!」
「頑張れー!」
「俺シャインルビーの職員から聞いたぞ?この2人、マージクル学園の生徒だって!」
「それは期待できるな!」
店主による2人の紹介を聞いて、観客達は盛り上がりを加速させる。
中にはサイとジェネの事を知っている人もおり、彼らは2人が大活躍する事を期待していた。
「それでは!第1回戦はサイ・トループ君と、この店の常連、ギルト・ビーダーの対決だー!」
「容赦しねぇぞ坊主!」
「僕もそのつもりです!」
サイは初戦から戦う事になっており、その相手はこの店で定期的に開かれる大会の常連の大柄な男、ギルト・ビーダーだ。
「勝負、開始!!」
「行くぜぇ!!」
相手は巨大な剣を携えるメガゴーレム、ザンバードを使っており、その剣をジェネシスタ目掛けて勢いよく振り下ろす。
しかしサイはその攻撃を冷静に見極め、それを回避して反撃の一撃をお見舞いした。
その一撃によってザンバードの頭部が破壊される。頭部が破壊されると敗北するのは学園と同じルールなのだ。
「勝者、サイ・トループ!!」
そうしてサイは第1回戦を勝利し、そのまま決勝戦へと歩を進める。
この店での大会常連客を次々に撃破し、決勝戦で彼を待っていたのは……。
「君なら最後まで勝ち残れると信じてたよ、サイ。」
「ジェネ……。」
「これは熱い展開だぁ!!飛び入りエントリーした者同士の決勝戦になるとは!!」
サイとジェネは決闘舞台に愛機を置き、魔法操縦桿を握りしめる。
そして、リバーの決勝戦開始の合図共に、最後の決闘が始まる。
「勝負……開始!!」
この大会は、あくまで一店舗が開催する小さな大会に過ぎない。そんな物で全力を尽くす事など、賢い者はしないだろう。だが、ここにそんな者はいない。
小さな大会だろうと全力で挑み、勝利を掴む。それがゴーレム使いの本来あるべき姿なのだから。
老いも若いも、男も女も関係なく熱くなれるもの、それがゴーレム決闘なのである。
◇
「勝者、サイ・トループ!!」
「あの少年、プチゴーレムでハイゴーレムに勝ちやがった!」
「んな事できるのなんてかの魔導王ぐらいしかいねぇってのに!」
ゴーレム決闘大会を制したのは、ジェネに勝利したサイだった。
ジェネは、魔力全開放を使わずに自分に勝ったサイを見て、彼に敬意の念を抱いた。
もう彼は、立派なゴーレム使いなのだと彼女は確信していた。
「おめでとうサイ君!これは優勝景品の「ゴーダムの秘石」だ。これを加工してゴーレムを作れば、最高のゴーレムが作れるだろう!」
「ありがとうございます!」
「良かったね、サイ。」
「うん、ありがとうジェネ。」
そうして2人は家へと帰っていった。今日の体験を経てサイは決意する……自分は、大人になってもゴーレム使いであり続ける事を。
魔導王と呼ばれていた頃のジェネよりも強くなり、ゴーレム使いとして活躍する事を彼は決意した。
ジェネはその決意を彼から聞くことは無かったが、ジェネからすればその表情を見ればサイの考えている事はなんとなく理解できた。
◇
「今日から二学期なんでしょ?勉強もゴーレム決闘も頑張りなさいね!」
「うん。」
「サイ、学校に行くよ。」
「いってらっしゃい!」
「「いってきます!」」
夏休みを終え、二学期が始まる。
キリマはサイとジェネを笑顔で送り出し、2人は学園へと向かう。
サイの夢は終わらない。彼が夢を追い続ける限り、道は明日へと続いていくのだ。
ゴーレム決闘は、サイの夢を叶える舞台となった。戦えサイ!学園がリングだ!
ゴーレム決闘〜最弱の僕のゴーレムに魔導王の魂が宿ってしまった〜 ヒカリ @karutake
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