ぬいぐるみさん!
せにな
少女の記憶の欠片
「早く起きなさいよー」
優しい声の囁きに肩を揺らされながら少女は目を覚ます。
「早くしないとご飯が冷めちゃうわよー」
「うん!ママ!」
クマのぬいぐるみのモフモフな手を繋いで少女はダイニングへと向かう。
「おっ。おはよう」
椅子に座って新聞を読んでいたクマのぬいぐるみが顔を覗かしてそう言ってくる。
「パパおはよう!」
挨拶を返した少女は嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「やっぱりママとパパはぬいぐるみさんなんだね!」
少女がそう聞くが、ぬいぐるみ達は何も聞こえてないかのように別のことを話し始める。
無視された少女は、はにかみながらも父の横に座って朝食を食べ始める。
その間も話しかけられる事は多々あったが少女の話には答えることは無かった。
何も答えてくれなかった少女の顔からは笑顔が消え、悲しげな表情が現れ始める。
「ねぇパパ?髪の毛が引っ張られる感じがする」
それでも諦められなかった少女は頑張って作った笑顔を新聞の下から覗かせる、が反応はない。
そんな態度を取られた少女の目からは大粒の涙が1滴、頬を辿り床に──ドン!と大きな音が鳴り響く。
「さっさと起きろ!」
野太い声の怒声に髪を引っ張られながら少女は目を覚ます。
「早く朝飯作れ!」
「はい、パパ……」
床から引っ張り上げられた少女はゴツゴツとした手に髪を握られながら和室の食卓へと連れて行かれる。
「ママ……」
テーブルの横には夜勤帰りの母が新聞を枕に地べたで寝ていた。
首筋や太ももには痣が見え、お酒の匂いやイカの匂いが少女の鼻につく。
母は少女の呼びには答えず、そのまま眠り続ける。
キッチンに連れて行かれた少女は父に言われた通り、朝食を作ってテーブルの上に並べる。
「できたよ、パパ」
「遅い!」
「ごめん、なさい」
怒鳴る父に謝った少女は部屋に戻り、2つのくまさんのぬいぐるみを抱き寄せて口を開く。
「ママとパパはぬいぐるみさんがいい……」
ぬいぐるみさん! せにな @senina
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