意外と覚えているもんですね、鮮明に (完)


「こんな感じだろうか」


 るかはパソコンを閉じる。

 これじゃあまるで、筈華はメタファーじゃないか、と笑う。

 ブルーライトカットの眼鏡を取る。

 体を伸ばす。

 涙をぬぐう。

 るかは席を立つ。

 廊下を進み、結衣とラルフがいるリビングへと向かう。

 るかはこれから息子の凛空を迎えに行かなくてはならない。真黒記念館という、親友がつけたおかしな名前の島へ。

 そして明日からはまた仕事に行かなくてはならない。

 連休は終わりだ。

 あの、大学生の頃の有り余った時間はもう帰ってこない。

 それでもるかはラルフを優しく撫でて、抱く。

 ソファーに座る結衣の隣に座り、笑い合う。

 親友に倣い今を愛している。

 るかは、今一度、改めて、真黒記念館という言葉について考える。

 筈華はなぜそんなことを言ったのか。そこにはどんな意味があるのか。

 意味なんてない。

 改めて考えてみても、るかはそう思う。

 それはただの、ユーモアのようなものだろう。何も考えずに突然出てきた言葉。でもそれが、筈華らしい。筈華には似合っている。

 だからこそ、るかにとっては意味がある。果てしないほどの意味が。

 そんな些細な一言に、るかは今でも励まされている。





                                   (完)

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ただ、それだけの真黒記念館 yukisaki koko @TOWA1922569

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