KAC20232 僕と彼女。周りはお似合いと言ってくれる

久遠 れんり

それでも二人は幸せ

 俺は、如月信二。高校2年生。

 1年の時から付き合っている彼女が居て、成瀬みゆき。

 とっても可愛い。


 実は、彼女の事は、中学生の時から知っていた。


 友人に誘われて、サッカーを応援しに行ったことがある。

 サッカー自体には、あまり興味がなく、周りの人たちは熱狂的に応援しているのが不思議だった。

 ふと階段を見ると、困った表情で首をひねりながら、階段を下りていく女の子。


 そして、少しするとまた同じ階段に現れて首をひねる。

 制服と、見ている方向から対戦相手の学校なんだろう。


 僕が気付いて3度目だが、やはり首をひねっている。


 いい加減試合に飽きていた僕は、彼女のもとへ向かう。

 だが、一歩遅く彼女は消えてしまう。


 だが少しすると、少し外野よりの階段から顔を出して困った顔をしている。


 この施設。連絡通路が隣の野球場やテニスコートともつながっていて、少し迷いやすいがそんなに難しくはない。


 やがてやはり、目の前に顔が出てきた。

「こんにちは」

 なるべくさりげなく、声をかける。

 彼女は、はっきり言って僕の好みど真ん中。

 美人と言うより、かわいいタイプ。

「こんにちは」

 少し戸惑いながら、挨拶を返して来た。


「さっきから、困っている感じだけど、どうしたの?」

 そう言うと、ぽっと赤くなって、

「あそこの応援席へ戻りたいんですけれど、私方向音痴で出るたびに違う所へ出てしまうんです」

 僕は彼女の方へ顔を寄せ、

「どの辺りに戻るの」

 と帰る場所を聞いてみる。


 彼女が、そっと指を指す。


 ああ分かった。

「サウススタンドの2階だね」

 じゃあ行こう。


 そう言って、歩きはじめる。

 階段を下り通路へ出ると、左に降りる。

 なぜか彼女は、右手に行こうとする。

 はい? なぜ右へ行く。

「そっちじゃないよ。サウスなら左手へ行かないと」

「えっ? でもさっきグランドを見ると、スタンド右手にありましたよね」

「でも今、グランドには背を向けているから、逆になるよね」

 そう言うと彼女は、両手の指をあっちこっちさせながら悩んでいる。


「まあいい。大丈夫だよ」

 そう言って、少し強引だが、彼女の手を引き席まで案内をした。

 その後自分の席へ戻りながら、彼女の友人が呼んでいた成瀬とかみゆき遅いと言われていたので、彼女の名前は成瀬みゆきだろうと理解して、うきうきしながら帰った。


 席に戻り学校名と名前を、ノートへメモをする。


 友達から、何しているんだと聞かれて、実はこんなことがあってと説明すると

「やったじゃん。名前聞いた?」

「いや聞いてない」

「じゃあ自分の名前は?」

「言ってない」

「何やってんだよお前。こういう些細なきっかけから、お付き合いは始まるものだ。じっくり説明してやるからジュースおごれ」


 などとグダグダで、結局その日は再び彼女には会うことは無かった。


 だがその晩寝ていても、彼女の心温まる笑顔が忘れられず、翌日から友達のつてを使い半年後入学するであろう高校の名前を入手する。



 私は、成瀬みゆき。

 中学3年生の時サッカーの応援に行き、いつものようにトイレに行った後迷ってしまった。

 私は、友達に言わすと方向音痴だそうだ。

 それも空間認識能力が壊滅的と言われた。

 たしかに、展開図は理解できないけれど、そんなに困らないし最近はスマホとか使えば家に帰れるし。


 でも、この日は施設内で迷った。

 なぜか、トイレから出て来た通り帰ったはずなのに、相手側の応援席に出てしまった。

 階段を上り、方向を確認して戻るんだけど、どんどん遠くへ行ってしまう。

 一番奥に行くと、通路は行き止まりになるから、逆に向いて進みトイレの場所にたどり着く。

 一度トイレに入り。帰り道を考える。

 通路を来て、右に曲がってトイレに入ったから、トイレに入ってくるっと回るから帰るには右に出ればいいのよね。


 そうして私は、幾度目かわからない敵さんの応援席にたどり着く。


 そんなとき、敵さんの学校の人に声を掛けられた。

 どうして敵がいるんだ見たいなことを言われるかと思ったら、事情を聴いて自分の応援席に連れて行ってくれた。

 それも、手を引いて。

 思いやりがあって優しい人。


 でもその時私は、不覚にも名前を聞くのを忘れてしまった。


 その日から彼のことが頭から離れず、彼の学校の前で見張ってみたり、聞き込みをしたりそうして、彼の名前と彼が受験する学校を突き止めた。


 入学後、彼に会ったら、付き合ってくれるように告白をしよう。


 そして、いつでも彼の居場所が分かるように、これをプレゼントする。


 クリスタル部分に太陽電池パネルと、周辺の無線LANに強制的に接続。

 WPA2やMACアドレスフィルタリングなら、数秒でクラッキングしてつながる。

 無線LANから、位置情報を私の携帯に通知してくれるネックレス。

 うふ。喜んでくれればいいなあ。



 やった。俺の収集した情報は正解だった。

 入学式で、彼女を見かけた。


 告白を受けてくれたら、いや受けてくれなくてもこれはプレゼントしよう。

 カメラを組み込みやすい、目の大きなぬいぐるみ。

 これを渡せば、彼女のすべてを共有できる。


 目には高性能太陽電池パネルが入り昼間なら充電される。

 カメラはオートフォーカスを組むと電源が足りなくなる。

 仕方がない、ピンホールで妥協するか。

 赤外線動作感知とついでに夜間の光源としよう。


 夜中に一度だけデータを圧縮送信なら、電源は極小で済むか?

 ああ、無線LANのクラッキング機能と、いや待てよ、自動取得のIPアドレスをDNSサーバに接続すれば、こちらからアクセスして、リアルタイムで見られるじゃないか。どうしよう、サーバ化。

 ラズパイじゃ電源も結構必要になるな、超小型のIoT用シングルボードコンピュータ何か良いのがあるかな?

 冷却の熱も問題かぁ。課題は多いし大きくなると重量と電源だな。

 マイクロ波受信機も使えないかなぁ。

 俺は全スキルを積み込み完成させた。

 彼女との間を、つないでくれる大事なぬいぐるみ。



 翌日、クラスが違うため、帰り道で彼女に声をかけるため、急いで教室を出る。


 あれ? あの後ろ姿は彼じゃないかしら? 急いで何処へ。

 そう思って追いかける。



 俺は慌てて校門が見える場所へ出て、ドキドキしながら彼女が出てくるのを見つめていた。

 その背後には、すでに追いかけてきた彼女もスタンバイ。

 あの雰囲気、誰かを待っているのかしら?

 そんなことを考えると、悔しさが募る。

 入学式まで待たず、彼を探し出して告白すればよかった。

 すでに彼のホームネットワークには侵入済だ。


 何処のどいつよ、個人情報さらすわよ。

 私の彼に好きになってもらうなんて…… 私なんて、半年前から好きだったのに。

 頭の中で悔やまれる。

 あの日名前を告げて、お礼を言えばよかった。


 そんなとき、彼がつぶやく。

「成瀬さん遅いな。まだ部活は入っていないはずなんだけど、誰かに誘われたのか?」

 へっ私の名前? 呼ばれた。

 彼が、どうして私の名前。

 そう思いながら、彼に近づき声をかける。

「すみません。如月さん。私の事覚えていらっしゃいます?」

「えっ」

 と、彼は驚き振り返る。


「みゆきちゃんいつの間に。あっいやごめん名前を呼び捨てにしちゃった」

 ふうー。くらっと来たわ。

 彼が名前を知っていて、しかも呼び捨ててくれた。

 あっイケナイ。往来で、それも学校の正門のすぐ横で、感激のあまり抱き着きキスをするところだったわ。

「あの、お話がしたくて少し落ち着けるところへ行きません? それとも誰か待っていたんでしょうか?」


 そう聞くと彼は、ふっと微笑み

「待っていたのは、君さぁ」


 言った本人は、ぱにくっていた。

 待っていたのは君さぁ。ってなんだよ俺。

 顔は引きつって、言葉が出ないし、なんだよ俺。

 半年前から、頑張ったじゃないか。

 ほほっ、本人目の前でパニックなんて、俺ここで失恋したら、絶対成瀬さんのストーカになる。自信は120%あるぞ。

 


 きゃー。やっぱり私を待っていたの? じゃじゃじゃあ。ひょっとすると、ここっここで告白とかされるのかしら? 私死んでもいい。……はっいやだめよ。

 ここで私が死んで、誰かが彼と付き合うなんて許さない。

 今のうちに、彼の持ち物すべてにGPS仕込もうかしら?

 ここでは色気ないし目立つわ。

 確かこの近くに、桜の綺麗な神社があったはず。

「確かその辺りに神社があったはずです。桜の名所なんですが、もう終わっちゃったかなぁ」

「ああ、ちょっと待ってね」

 彼は素早く検索して、場所を確認してくれる。

「わかったから行こうか?」

 そう言って歩きはじめるが、何かを思い出して私の手を握ってくれる。


 そうして、あの時と同じように私の速度を見ながら早さを調節してくれる。

 ああ。これよこれ、このさりげない気配り。

 ああダメ、β-エンドルフィンがオーバーフローするわ。


 さすがの彼。迷うことなく、神社へたどり着くと、桜はもう終わっていた。

「残念だったね。終わっちゃったか」

「でも、静かでいいわ」

 だっ。何を言っているの私?静かでいいって何か期待しているの満々じゃない。


「そうだね。成瀬さん。突然声をかけてごめんね。実は半年前にサッカーグラウンドであったのを覚えている?」

 そう言いながら、練習はこれだったけど、今日声かけて来たのは成瀬さんの方じゃん。何やっているの俺。いいや、次へ進もう。


「あれからずっと君のことが頭から離れなくて、つまり君のことが好きなんだ。友達からでもいいけれど、僕とお付き合いしてください。お願いします」

 そう言って、頭を下げる。


 うっきゃーーーー。告白。皆さーんわたくし。成瀬みゆき。かれにこくはくされましたーあああぁ。


 彼女の眉がぴくっと動き。

 彼女が、言葉を紡ぐ。

「私も、今日告白しようとしたの。半年前のサッカーグラウンド。あそこで応援席に送ってもらい、帰った後。あなたの名前を聞かなかったことを後悔したの。入学式で見たときには運命だと思っちゃった」

「なんだ、それじゃあ。良いの?」

 そう言うと、彼女はうなずく。


「ああっとこれ、プレゼントなの」

 そう言って彼女がペンダントを取り出す。

「ああ僕もあるんだ。ぬいぐるみなんだけどさ」

 そう言って、目の大きいペンギンのぬいぐるみを彼女に渡す。

「僕だと思ってくれれば。いや今度はもっと良いものを渡すから」

 彼は、あたふたしている。

「そうね。これからゆっくり知り合っていきましょう」

 そう言って、二人は我慢ができず、花が終わった桜の下で抱き合いキスをする。


 きゃー鼻血出ていないかしら。

 それから、連絡先を交換して、帰ることにした。


 彼女は、位置情報を眺め。

 彼は早く映像を見るため家路を急ぐ。



 その晩、夜中も彼の居場所を確認し、安心して通信アプリに初めておやすみなさいと入力をする。

 そして送信。

 すぐにお休みと帰って来た。


 電気を消してふと気が付く。

「ふふっ彼ったら、赤外線LEDの波長は700nm以上を使わなきゃだめよ」

 そう言ってスマホのカメラを起動して、ぬいぐるみに向ける。

 片目だけ、なら、動作感知か周波数が低いからライト替わりかな?

 きっと今、彼に見られているのだろう。

 心配性なんだから。

 ふふっと微笑み、そうつぶやいて眠りについた。


 これから先もずっとぬいぐるみは、彼女を見続ける。


 彼らはその後、似た者夫婦と呼ばれ、幸せになったようだ。

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