私とぬいぐるみの思い出
速水すい
届けられたぬいぐるみ
ある春の日、高校が県外で一人新生活。
初の一人生活、親からの叱りや注意はない。
晴れて自由になった感じだ。
荷物の片付けも終わり、さて今夜の夕食を買いにコンビニへ。
桜並木通りを歩き、古い書店を横切り、信号機がある横断歩道を歩いた先にあるコンビニ。
店内に入り、キャベツの千切りとチキンバーとあとちょっと贅沢なポッキーとポテチと炭酸飲料をカゴに入れてレジへ。
支払いを終えて店内から外へ、日は暮れて空は常闇に染まる。
今日も一日が終わったなぁ。
何事もなく帰った、玄関を開けて中に入った時だった。インターホンが鳴った。
宅配を頼んだ覚えはなかった、とりあえず出てみると宅配人が立っていた。
「桜坂陽菜さんですね?」
「はい、そうですけど」
「こちらをお兄様からです」
「え?」
私は、思考停止した。
いや、お兄ちゃんは一ヶ月前に交通事故で亡くなっているからだ。
とりあえず受け取った小包、中を開くとクマ型のぬいぐるみ。
一ヶ月前、私が欲しがってねだっていたぬいぐるみが何故運ばれてきたのか。
ぬいぐるみの背中に一通の手紙があった、手に取り中を開く。
「陽菜へ、この手紙を読んでるって事は僕はこの世に居ないだろう。何故死ぬのが分かっていたかって顔してるはず、話は沢山あるけど君を残して逝くことをどうか許して欲しい。保険金目当ての父と母が僕を殺害計画していた。だから、陽菜が狙われる前に転校と違う街に引っ越させた。色々困惑していただろう、僕なりの最後の兄としての役目を果たせたかな? じゃあねって」
言葉を失った私、最後の最後にやられた。
兄の葬式に母と父はギャンブルで帰って来るはずはない。この葬式に参列されてるはずがない、だから私はせめて兄の顔を一目見たかった。仲悪くて喧嘩していてた兄に詫びたくて。
「今更兄ちゃん顔しないでよ」
ただただ、ぬいぐるみを抱きしめて泣いた。
私とぬいぐるみの思い出 速水すい @zerosekai
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