くぅちゃんはきたくしたい

三屋城衣智子

くうちゃんはきたくしたい

 ぼく、くぅ!

 八さいの男の子。


 今からぼくね、お家に帰るんだ。




 あそびに出かけた先で、ぼくは迷子になった。

 友だちもできたけど、ぼくにはしん友がいてちょっとしんぱい。

 ぼくの方がお兄ちゃんなんだから、さいごまでやっぱ、面どう見なくっちゃ!


「くぅ、どこへ行くんじゃ?」


 おじいちゃんが聞いてきた、ぼくは答えた。


「しん友のとこだよ!」


「帰り道、わかるかしら?」


 おばちゃんが聞いてきた、ぼくは答えた。


「大丈夫! ぼく八さいだからね!」




 みんなにお別れのあいさつをして、ぼくは道なき道をすすんだ。

 時々こけたし、きのう雨がふったみたいでどろんこになったけど、気にならなかった。

 だって、しん友にかっこいいとこ見せなくちゃ!


 ぼくはぐんぐん歩いた。


「あら、かわいいぼうや」


「わ、ちっちゃーい、かわいー」


 黄色い声を受けながら、どんどん歩いた。

 早くしないと、きっと周りがまっくらになっちゃうから。

 ぼくは、知らない道を、それでもこっちだって信じて歩く。




 だんだんと、見たことのあるけしきになってきた。

 ここは知ってる、しん友といっしょに遊んだ広場!

 かけっこして、すべり台で二人してすべったんだ。

 ぼくはボール投げがへたっぴなんだけど、しん友はとっても上手!

 がんばれって、おうえんしたっけな。


 そんな思い出といっしょに、ぼくはまだまだ歩く。


 歩いて歩いて、ふと遠くを見やると見知ったせなかが見えた。


 しん友だ!


 ぼくはいっしょうけんめい歩いた。

 歩いて歩いて、あともうちょっと。


 そんな時。

 横から近所のきょうぼうってひょうばんの犬、ツヨシがくるのが見えた。

 あいつったら、またくびわ抜いちゃってる!


 危ない!!


 ぼくは自分の体を思いっきりバネのようにして、しん友の前におどりでた。




 キャンキャンキャン!!




「あれ? ツヨシじゃないか、また脱走したのか? しょうがないなぁ。あれ、何くわえてるんだ?」


 ぼくだよ、くぅ!


「……くぅ! どこにいたんだよ、探したんだぞ。っておいツヨシ、これは俺の大事だぞ、離せ!」


 ぼくはガッチリツヨシにくわえこまれていた。

 しん友がなんとか助け出してくれたけど、耳がちぎれて、目も半分取れちゃった。


「あー、ボロボロじゃんか。でもよかった見つかって。母さんに直してもらおうな」


 そう言われて、ぼくはぶじ、おうちに帰った。


 耳はちゃんと治ったし、目は新しくかわいいボタンの形になった。

 せんたっきってやつで、ぐるんぐるんになったのは、目が回ったけど。

 おかげで体はふかふかだ。

 だから今日も、しん友と遊びに出かける。




「くぅ!」

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くぅちゃんはきたくしたい 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko

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