考えるぬいぐるみ

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この場所を脱出するには手に取ってもらわねば!


 我輩はぬいぐるみである。名前はまだない。

 ――などとアピールしたところで誰かに聞こえるはずもなく、私は気付いた時には同胞達の下に埋もれていた。


 まったく……ご主人様に手に取ってもらいたいのであれば、もっとこう良いポジションというものがあるわけでだな。おい聞いてるのか、そこの店員スタッフ! スペース内に適当に置けばいいものではないし、アームの届かない端っこに置くとか論外なのだぞ!


 くっ、何故我々には自由に動く権利が与えられていないのだ。これでは上に乗っかってる奴らの方が圧倒的に有利ではないかオイコラ待て、誰だ我輩の顔を踏んだヤツは! ちょっと話があるから表に出んか!


 ……ふん、まあいい。

 工場で作られてからは暗い箱の中でじっとしていて、今ようやく日の目を見ようとしているのだ。浮足立つのもわかる。目を閉じれば同胞達のワクワクやドキドキが伝わってくる。かくいう私も例外ではない。

 一体どんな人の手に取ってもらえるのか。出来れば大事にしてくれる人がいいな。別に抱いて眠ってくれなんてワガママは言わないので、いつでも眺めてもらえる特等席辺りが希望である。


 むっ!


 今、我輩の上から何者かがプッシュしてきた振動を感じたぞ!

 コレはもしや私が手に取ってもらえる時が近づいてきたのかもしれん。


 よーしその調子だ、かもんべいべー! 私はココにいるぞ! ココにいるんだ! だからお願いだ、早く助けてくださいなんでもしますから!! くっ、こんな媚びた態度ではやはりダメか? ならばどんなのがお好みだ言ってみるがいい! 鬼を殺せる刀でもかっこよく構えて「俺は俺の責務を全うする!」なんて台詞をキメることもできるぞ我輩は。なんせ刀持ってるからな、ふにゃふにゃだけど!


「パパー、あれ取って―!」

「ん? あれだね、どーれ……」


 ナイスアピールだお子様よ!

 しかもこのパパは中々の腕前と財力をお持ちのようで、子供のおねだりに応えるために全力で我らを掴みとっていくではないか。


 ――そしていよいよ、私の番が来ようとしていた。

 ここぞとばかりに、私は気合を入れて頭についてる紐の輪っかをイイ感じにアームに引っかける。ヨシバレテナイバレテナイ。

 

 さあいざゆかん! 自由な外の世界へ!!



 ◇◇◇


「わー、パパすごーい!!」

「はははっ、喜んでもらえてうれしいよ。はい、これ欲しかったぬいぐるみ」

「可愛い―! 大事にするね!」

 

 

「うんうん。プライズキャッチャーの景品ぬいぐるみでそこまで言ってくれるならパパも本望だよ」





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