記憶にある本屋

工務店さん

第1話

個人商店だったと記憶している。

建物の大きく、店舗部分も10畳くらいだった。

出入り口横に、店主が座するカウンターレジ。

反対側には、奥への扉。

それ以外の壁は天井まで本棚。

ジャンルは大雑把に分けられている。

奥の扉の右手にある本棚、いつもサイズ違いのハードカバーが飛び出ていた。

まるで何かのスイッチだ。

ある時、店主が居眠りしていたとき、ついその本を触ってしまったんだ。

子供が扱うには、大きいハードカバー。

見た目に反して、その本は軽かった。

取り出そうと上部に右手指を掛け、左手で背表紙を持つ。

スッと抜けた。

扉が開くのかと期待したんだが、何故か右手の本棚が手前に動いた。

本棚が扉の様にね。

開いた空間は、地下への階段が伸びていた。

興味もあったので、階段を降りることにしたよ。

照明に裸電球が一つ灯っていた。

地下二階くらい降りた先に、扉があり小窓もついていた。

小窓から中の弱い光が出ていた。

躊躇していると、中から声がした。

「そこに居るのは判っているから、中に来なさい、怒りゃしないから」

聞き覚えのある声、居眠りしていたはずの店主だ。

恐る恐る中へ入る。

広さは判らない、高い天井まで本棚、壁の至る所に本に埋め尽くされた状態で立っている。

見てれていると店主が言う。

「ここに来れた人にだけ、見せる本があるんだが、君には読めるかい」

と薄っすら笑う。

本は大好きだから、例え文章として読めなくて、文字を追いかけるのは試したい。

「読みたい」と答えると、カウンター下から一冊のハードカバーを出す。

見た目、ここへのキーだった本に似ているが、構わずページを開いた。

そこで記憶が途切れた。

気付いたら自宅だった。

ズボンのポケットに、二つ折りにされたメモが入っていた。

「読める時が来れば君の前に現れるよ」

未だに現れていない。

その店舗も今では、マンション用地になっていまったからね。

でも、その時が段々と近づいている気がするんだ。

その証拠に、たまに服のポケットや、内ポケットに感触がある。

紙の感触、二つ折りになったメモ帳。

「もうすぐだよ」とか、「まだ気付かないのかい」とか。

最近はストーカーかと思うが、この先本当に現れるのが、楽しみな様な嫌なような気分である。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶にある本屋 工務店さん @s_meito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ