二人で本屋

葉月りり

第1話

 私と彼は同期入社。新人研修で知り合い、お互い本好き漫画好きで話があって、なんとなく付き合っちやおうかということになった。部署が違うので平日は無理だけど、休みの日は毎週のように会いに行く。でも、いつも思う。


これはデートなのかな。


 私たちが出かけるのは本屋、古本屋がたくさんあることで有名な街。


 駅で待ち合わせて二人で本屋に行く。そして二人バラバラに自分の好きなコーナーに行ってあれこれ物色する。私はもっぱら少女漫画、そして彼も好きなコーナーを回って歩く。

 まだ本にビニールがかけられていない頃のこと、そこで一時間や二時間は過ごせてしまう。早めに切り上げて本屋のハシゴをすることもあった。


 そして、気が済むまで本を眺め、買うものを決めたら、どちらからともなく相手を探し始める。私は大体決まったところにいるのですぐにみつけてもらえるが、私が彼を探そうとすると、結構あちこちのコーナーを巡らなければいけなくなる。大きい本屋でお互いが探し始めるとなかなかみつけられなくて、そこでまた時間を使う。そして、お互い出会えたら、大体そこでお腹すいたねということになって食事をして、駅で「またね」と別れる。


 これはデートなのかな。

と、思いながら私も気を使わずに素でいられる彼とのこの時間を気に入っていた。


 これはデートなんだ。

と、自分に思い込ませて一年が経った。


 この一年、本屋だけでなくたまにはどこか違う所に行こうよと言えば、そうだねと計画してくれて、夢の国に行ったり、海に行ったり、一泊旅行をしたりもしたが、それは二人きりではなかった。

 優しくて面白い話を聞かせてくれて、私は彼が大好きなのに彼は優しすぎる。


 さすがにこれでいいのかな。

と、思い始めて二年が経った。


 相変わらずの二人、変化といえば、それまでまるっきりバラバラだった本屋での行動が、お互いの趣味のところに一緒に行くようになった。彼が少女漫画を面白いと読み、私がミステリー小説やミリタリー系の漫画を探したりするようになってきた。


 彼と私が楽にいられるならこれでもいいのかな。

と、思いながら三年目も半ば。


 いつものようにお互いの領分をのぞきながらもバラバラに自分の好みの本を選んでいたが、早々に買うものが決まったので、その日は彼を探す前に会計を済ませてしまおうとレジに行った。すると、彼がレジに並んでいた。そばに行くと彼が先に気がついた。


「アレ、これ同じ本だよ」


二人同じ本を買おうとしていた。


「ほんとだ。好みが似てきちゃったかな」


「これさ、おれが買うから、戻しておいでよ。一家に二冊になっても無駄だし」


「え?」


 彼は自分の言ったことに気づいているのか、いないのか、レジに向かって財布をゴソゴソしている。


 やっぱりこのままじゃいけない。

と、私は決心した。これからは私が積極的にアプローチして行こう。


おわり

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二人で本屋 葉月りり @tennenkobo

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