ビブリオファイト!!

ひとえあきら

1冊目;その書店

 その書店は、とある裏通りにひっそりとあると言う。


 曰く「入ったら二度と出られない」

 曰く「時折、呻き声や叫び声がする」

 曰く「一度ひとたび目にしたら身の破滅」

 ……等々。


 稀に良くある都市伝説の一つと言えばそうである。

 が、私は知っている。

 が実在することを。

 から生還した稀な者の一人として、君には真実を伝えておかねばなるまい――。


§§§¶§§§¶§§§¶§§§¶§§§¶§§§¶§§§


だぁ~ぃ23か~ぃ、ビブリオファイッ、レリゴー!!」


 海賊風のアイパッチを付けた司会者が威勢良く鬨の声を上げた。

 同時に会場内へと散開する競技者たち。

 彼らは概ね下は高校生から上は初老まで、外見は学生や会社員リーマンはおろか、厳ついマッチョや色っぽいお姐さん、果てはビジュ系かレイヤーかというド派手な若者と、実に幅広い年齢層と雑多な印象の者が居る。

 やがて、三三五五に散っていた者の中から一人二人と戻ってくる者が現れる。


「おぉーっ!! 一番乗りを果たしたのはこの二人~っ!! 」

 会場の中央、まるでプロレスのリングのようなそこのコーナーポストに真っ先に辿り着いたのは――

「それでは~!! 先ずは赤コーナー、N-高校代表、普段は図書委員も務めるという知的な18歳、ビブリオネームはシオリちゃ~ん!!」

 リング周囲に設置された多数のモニタから歓声が響く。

「そして青コーナー、クラブ"出巣吐露威デストロイ"代表、煽り上等、喧嘩上等の23歳、ビブリオネームはキング~!!」

 こちらにも響く歓声。先程と比べると幾分大きめで野卑ている。

 紹介された二名がリング中央に向かう。向かい合って睨み合う。此方小柄な眼鏡っ娘JK、彼方小太り気味だが厳ついラッパー風の男、と言うには余りにも差のある組み合わせであるが――。

「では両名離れて~、それでは~、Round-1、ファィッ!!」

 司会者――否、これはもうレフェリーか――は僅かの躊躇も無く開戦を宣言した!!


§§§¶§§§¶§§§¶§§§¶§§§¶§§§¶§§§


「さぁ~て、先ずは"キング"が先攻か、取り出したるは~!?」 

 構えを取った"キング"が懐からを取り出す。

「――おぉっとぉ~!! これは意外!! 音楽系と思いきや、よもやの"月マグ"か~!?」

 彼の手に握られたのは分厚い月刊少年漫画誌。メジャー系の月刊誌だけあって頁数が半端無い。

「さて、これに対する"シオリ"ちゃんは~、な、なんとぉ~!!」

 レフェリーが驚愕の声を上げたのも無理は無い。厳つい男の分厚い得物に対する華奢な彼女の得物とは――。

「う、薄いっ!! 実に薄いぞっ!! これは見たところ、A4の16頁表紙別のオフセット本だぁ~!!」

 そう、レフェリーの言うように所謂同人誌うすいほんである。頁数など、先の漫画誌の一割にも満たないであろうか。ちなみに表紙はフルカラーの美麗なキャラ絵でご丁寧にコーティングまで施されている。

「こ、これは体格差もの差もありすぎる~!! "シオリ"ちゃん、これで"キング"にどう立ち向かうのか~!?」

 レフェリーの煽りに、モニタの向こうの観客達も固唾を呑んで見守っている。


「へッ!! 戦いは結局、物量なんだよブラザー!!」

 動かない"シオリ"の様子を萎縮していると見てか"キング"が仕掛ける。

「可愛いJKをぶちのめすのは気が進まねぇがYO!! 喰らえやオラぁ~!! "ドラゴン&ウルブス"!!」

 彼が振り上げた月マグから巨大な一頭の龍と狼の群れと見紛うエフェクトが飛び出す。

 それらはいまだ動かぬ哀れな子羊に牙を剥き――。

「――これだから、脳筋って嫌い」

 "シオリ"がぼそっと呟くや、彼女の手にした同人誌うすいほんが光り輝き、襲い来る狼の群れを切り刻んだ!!

「斬撃乱舞"BLスラッシュ"」

 鮮やかな技に声もない観客と"キング"。だが、後に控えた巨大な龍の口から炎のようなエフェクトが!!

「ま、まだまだッ!! 喰らえー!!」

 それを見た"シオリ"は呆れたように溜息を吐いて、

「ダッサwww 今時ドラゴンとかwww 昭和かwww」

 と盛大に毒を吐いたwww

 同時にリング内に猛烈な吹雪ブリザードが舞い踊り、炎を吹き消してしまう。

「やることがいちいちサム過ぎて草www」

「な……な……」

「おぉーっとぉ!! これはシオリちゃん、意外と言っては失礼だが大健闘~!! 炎に吹雪で対する辺り、流石は知性派だぁ~!!」

 レフェリーの絶賛に観客からも歓声が上がる。


 一方、渾身の技を"サムい"と親父ギャグ認定された"キング"は顔を真っ赤にして叫んだ。

「――て、テメェっ!! 人が手加減してやろうかと思ってりゃチョーシこきやがってッ!!」

 自分を指差して捲し立てる"キング"にも平然と向き合っていた"シオリ"だが、ここで一転、攻勢に出た。

「破顔必笑"キラスマフラッシュ"」

 言うや否や、彼女の背後に出現した王子様風のイケメンがウィンクする。するとその瞳から☆形のエフェクトが無数に飛び出し、"キング"を襲った!!

「うわっ!! 何だこりゃ!! ――ぐ、ぐうッ!!」

 無数の星に塗り固められもがいていた"キング"だが、やがてそれが一斉に弾け飛ぶ。

「ぐはぁッ!!」

 かなりのダメージを受けつつもなんとか立ち上がった"キング"だったが。

「――ぷっ☆」

「――ぶはっwww」

 期せずして"シオリ"とレフェリーが同時に噴き出した。

「――な、何だコラぁッ!! 何がおかし――」

 ふと見ると、モニタの観客も皆、嗤いを堪えている。

 状況が飲み込めず戸惑う彼にレフェリーが手鏡を差し出した。

「――な、なんじゃこりゃぁーッ!!」

 あろうことか彼の両のまなこは、睫毛までぱっちりとしたきゃわわなお目々になっていたwww

 まるでプリクラでエフェクト盛り盛りにし過ぎた状態である。ご丁寧にハイライトまで☆がキラキラしているwww

「心配しなくても貴方が負ければ元に戻るから」

「っザケんなコラ!! さっさと元に戻しやがれ!!」

 折角の怖い台詞も顔面と合って無くて大草原不可避であるwww

 しかもガタイはヤンキー漫画的なのに眼だけが昭和の少女漫画風なため違和感が酷くてキモいレベルwww

「こうなったらさっさとブチのめしてやらぁ!! "ファーストステップ"!!」

 言うなり彼の全身が真っ赤に輝き、頭をぐるぐる回しながらパンチを繰り出す。

「ちょっと!! それ週刊の方でしょ!! レギュレーション違反よ!!」

五月蠅うるせぇ!! 細けぇこたぁいんだよ!!」

 いけしゃぁしゃぁとうそぶきつつ、ならこっちは問題無いだろうとばかりに少林寺拳法やラ〇ダーキックを織り交ぜる"キング"に防戦一方となる"シオリ"。

 レフェリーも戸惑っているが、どの技が違反かどうかが非常に解り辛いため、はっきりと反則を取れないでいる。

 流石にガチの肉弾戦となるとウェイトもリーチも"キング"に分があり、体格差が効いて次第にコーナーに追い詰められる"シオリ"だが――。


「――っタマ来た。私が勝っても元に戻してやんないんだから」

 これはかなり激おこの模様。

 不意に"キング"から離れて距離を取ると、片手のてのひらを天に向けて突き上げた。

「みんなー!! 私に"尊み"を分けてー!!」

 すると彼女の掌に向かってそこかしこからふんわかしたオーラが集まってくる。

「――ちょ、待てよおま!! それDBだろが!! そっちこそ違反じゃネーかYO!!」

 それを聞いた彼女は満面の笑みで返したものだ。

「あーら、ちゃんちゃら可笑しいわw」

 その間にも陸続と集まる"尊み"のオーラ。

「だって、何でもアリなのよ、同人誌うすいほんだもの♥」

 やがて、黄金に輝く掌から繰り出されたフィニッシュブローは――!!

「"ギャラクティカ・てぇてぇ"!! ☆になっちゃえー!!」

 全腐が泣いた!! 全宇宙が萌えた!! てぇてぇの神話、今――!!

 超新星爆発だの惑星直列だの虹だの薔薇だのとありとあらゆる"てぇてぇ"エフェクトを総動員し、"シオリ"はその小さな拳を振り上げる。

 BAGOOON!!とかDOGAAAN!!とかCRUSH!!とかいう感じの効果音を響かせつつ、"キング"は星になった。


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 ――私の話はこんなところだよ。

 ――何、気になるかい? なら善は急げだ。もう君にも見えているだろう、すぐそこの角にある、あの扉が。

 ――そうだ。あれが例の書店さ。

 ――あぁ、最初の噂ね、全く出てこれないという訳じゃぁ無い。

 ――そのためには条件がひとつ。ことさ。

 ――いや、逃げようったってもう遅いよ。君にはあの扉が

 ――騙すような形になって済まんね。今時はなかなか人手不足でねぇ。


 ――え? 何? そもそも私は誰かって?

 ――あぁ、そういえば言ってなかったね。


 そう言ってサングラスを外したの両のまなこは、さながら往年の少女漫画のようにぱっちりと――。

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ビブリオファイト!! ひとえあきら @HitoeAkira

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