【KAC20231】本屋大戦の始まり

猫月九日

本屋大戦

 底辺Web作家であるところの僕は、あまりのその不甲斐なさに天才ハッカーである妹にノベリストAIロボット、アイザックを与えられた。

 そして、今日もアイザックと共に、小説を書いていきます。


 あるところに本屋さんがありました。本屋の店主は、一人のおじいさん。

 彼がまだ中年だった頃に、彼の父親から引き継いだそのお店は、彼の本の知識からなる様々な蔵書と彼の人柄により長年愛されたお店でした。

 ……しかし、時代は変わります。


『うん?』


 ネットにおける販売の活性化により、気軽に本をネットで買うことができる時代になりました。

 売り切れの心配がなく、すぐに届くということもあり、ネットで本を買う人は年々増加していきます。

 その影響で、多くの本屋さんは営業不振に追い込まれ、多くの本屋さんが廃業となっています。


『……なんか』


 それでも、彼の本屋さんはまだ生き残っていました。


『おっ?』


 理由は、彼の深い本の知識と彼が国中を回って集めた蔵書です。

 ここに来れば、ネットですらなかなかお目にかかれない本が手に入ると、知る人ぞ知る隠れたお店となっています。


『いいぞ、いいぞ』


 しかし、そんな彼のお店も最終的には時代の流れには敵いませんでした。


『あれ?』


 電子化の並がついに、本にも訪れたのです。

 どこでも読める、すぐに手に入る。その便利さから、電子書籍はすぐに広まり、 本はスマホで読むものとなるまで、そう時間はかかりませんでした。

 そうして、最後の生き残りだった彼のお店もついには潰れてしまいました。



『ちょちょちょっ!ちょっと待って!!アイザック!ストップだ!』


「なんですか、いいところだったのに」


 内容を読み上げていた、物書きAIのアイザックが不満そうな顔で僕の方を見る。


「いやいやいや、本屋がテーマの内容なのに、潰れてどうするんだよ!それじゃあ、物語は広がらないじゃないか!」


 せっかく、公式さんのイベントに参加しようとテーマである『本屋』で内容を考えてもらおうとお願いしたのに、なんか思ってたのと違うのが出てきた。

 しかし、アイザックは僕の言葉に首を振る。


「いえいえ、ここから、リアル本屋側からリアル本を守る戦士が出てきて、ネット本屋の電子書籍と戦い展開になるんですが!」


「なにそれ!ちょっと気になる!?」


 って、違う!


「多分だけど、このテーマって少しでも本屋の魅力をアピールする目的があると思うんだよ!それなのに、戦闘ってどうなんよ!」


「考え過ぎではないですか?私の計算によると、特に何も考えていないに一票です」


「お前のAIは物語書くことに特化しすぎて、計算とか全然できないだろがい!」


 いわゆる天才ハッカーであるところの妹から与えられたアイザックは、あらゆる物語を記憶しているが、その反面それ以外のことが全てポンコツになっている。

 まぁ、AIに情緒を理解しろってのも酷な話かもしれないけど。


「情緒=きっかけとなる何かがあって心の動きが誘われる、その気分やその場の雰囲気。大丈夫です理解してます」


「言葉の意味を説明しろって話じゃないわ!」


 ともかく、


「もうちょっと、本屋さんでいい感じの内容を考えようよ!こう、やってきた客におすすめの本を紹介するとか」


「いえ、しかしですね。正直、本屋で本を買うより、ネットで買う方が便利ですし、電子書籍の方が便利ですよね?マスターさんだって電子書籍で読んでるじゃないですか」


「うっ……、いや、確かに、そうだけど」


「それに、近年だとWeb投稿サイトも充実してますし、そもそも本を買う機会が減ってないですか?」


「……気に入ったやつはちゃんと買ってる!!」


「それじゃあ、Webでだけ読んで買っていない小説の数を数えてみましょう」


「……数え切れない」


「そうですよね。やはり本屋さんは、時代の流れに沿ってなくなる定めさだなのです」


「……いや!実物のある本にだっていいところがある!こう、手に取って読むのと、スマホで読むのはなんか違うし」


「スマホで読んでるマスターさんが言っても全く説得力がないのでは?」


「一般論だっ!」


「……まぁ、そういう一般論があるのはいいでしょう。ですが、そういった層がいる。そうなると、どうなるかわかりますか?」


「?どういうこと?」


「実物で本を読む勢と電子書籍勢による戦争です」


「……はぁ?」


「実物のが優れていている!と主張する勢と、電子書籍の方が便利じゃん!と主張する、この2つの勢力のぶつかり合いは、今は小規模ですが、いずれ止められない争いを生むことになるでしょう。そしてそれをきっかけに、世界を巻き込む大規模な戦闘になります」


「なんか、飛躍しすぎじゃね?」


「物語なんて誇張するくらいがいいんですよ。実際、内容気になりませんか?」


 そう言われると、


「気になる」


「よろしい、では、続きを書きますね」


 そうして、今日も僕とアイザックによる小説執筆は続く。


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