本屋を燃やせ

水城みつは

本屋を燃やせ

「くっ、殺せ!」

私は屈強な男二人に組み伏せられていた。

魔法阻害の魔道具が使用されているのか、魔力を練ることもできない。


後少しだった。

後少しで火球ファイヤーボールの魔法でブツを燃やせたというのに。


「騎士団長ともあろう方が惨めなものですねぇ」

ヤツは下卑た笑いを浮かべて見下ろしている。

「そんな目で見られても困ります。これらは正当な貴女との契約の結果ですよ」

積み上げられたブツを前を見ながらそう言った。


「契約は無効だ。こんな事になるなんて知らなかった」

あの時、私は辺境から騎士団に入るべく王都に来たばかりだった。

花の王都とかい辺境いなかにはない素敵なもので溢れており、高価な本が溢れる本屋もその一つだった。

丁寧な装丁や美しい挿絵で彩られた王子様との素敵な恋物語の本は私を虜にした。

しかし、少ない給金では本を買い集めるにも限りがあった。


 そんな時にヤツが契約を持ちかけてきたのだ。

「タダで本を手に入れたくはないかね」

見習い騎士団員で食費を削ってやりくりしていた私には魅力的な話だった。


「私は誰かの書いた物語を読みたいのです。

上手い下手は関係ありません。

その人の願望の詰まった物語が読みたい」

温厚そうな本屋の主人はそう言った。


本に飢えていた私はその言葉に感動し、物語を書いては本屋の主人に渡し、代わりにきらびやかな本を受け取った。

私の夢見る物語は喜ばれたが、きらびやかな本になることはなかった。

見習いがとれ騎士団員として忙しい毎日を送るうち、いつしか本屋からは足が遠のいていった。


 そして、騎士団長として騎士団をまとめるようになったある日、本屋からまとまったお金が振り込まていることに気づいたのだ。

詳細を確認しようと本屋へ向かった私は見てしまった。


『今話題の騎士団長の若かりし頃の執筆作』と平積みされている本を。


「今度の新刊も馬鹿売れですよ、姫騎士センセェ」

燃やせ、本屋を燃やせ、私の黒歴史を!



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本屋を燃やせ 水城みつは @mituha

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