【KAC20231】ここは本屋です
大月クマ
貴方はどう思いますか?
「忙しいところ申し訳ないが――」
「帰ってもらえませんか? 忙しいので」
「……ああ、いやいや。私は客だよ。そんな邪険に扱って――」
「お客様でしたか。それは失礼しました。最近、聞くだけ聞いて、買い物をしない人が多い者で……」
「ここはどこかね?」
「――はあ……。
見てもらうと判りますが、ここは本屋です」
「そうなのか?」
「何かご不満でも?」
「いや、その割には……あそこで、ヘッドホンで音楽らしいのを試聴している人がいるが――」
「読書の間に音楽を聴くお客様がおりますから。そのため、当店ではCDなどの音楽ソフトも取り扱っております」
「ということは……」
「はい。プレーヤーやイヤホンなども取り扱っております」
「では、あっちにはテレビもあるようだが――」
「最近はメディアミックスも進んでおりますので、DVDなどの映像メディアも取り扱っております。もちろん、そのための画面やレコーダーのも充実しております」
「なるほど商売上手だねぇ。しかし、あのカウンターのようなのは、余計ではないのかね?」
「いえ、私どものでは本をじっくり読んでいただけますように、カフェテリアも併設させていただいております。
「そうなのか。というか、あそこでは勉強をしているようだけど、買わなくてもいいのかね?」
「それは構いません。そちらには文房具も販売しておりますので、使用感もお試していただけるかと」
「そうなのか。何屋かよく判らなくなってきたな……」
「ですから、本屋です」
「でもねぇ。あの本棚の隣には食料品が置いてあるが、まるでスーパーマーケットじゃないか」
「ああ、あそこは料理レシピの場所です。『レシピ本を見ながら料理を試したい』とのことで、食材をご用意しております」
「とはいっても、キッチンもあるのは、やり過ぎなのでは?」
「週に3回あちらで料理教室もやっています。必要なので」
「そこまでやっているのか? しかし、隣で食事を取っている人がいるが――」
「折角作りましたので、料理教室をやっていない日はレストランとして間貸ししています」
「てことは、そっちにある木材は――」
「DIYのコーナーですね。土日に――」
「講座もやっている?」
「はい、よくお判りで。平日は工務店が作業していますから。ちなみに、あちらにはファッション系の――」
「だいたい判ってきましたよ。しかし、その隣にあるカウンターは何かね?」
「ああ、DIYの講座を受けた方が、『ウチじゃあDIYをするのには狭いから、どこか新しい物件が欲しい』というので、不動産の――」
「不動産!?」
「はい。お隣のコーナーは役場に頼んで出張窓口を出してもらっております。税金などのご相談もお受けいたしております」
「そこまで至れり尽くせりで……ええっと、隣にフルーツショップに、フラワーショップ。そっちは――」
「葬儀コーナーです」
「葬儀! ここは一体、どこなんだ!?」
「ですから、本屋だと」
「本屋にしても、コーナーが多すぎないか?」
「皆さんのご要望で、どんどん増えてきましたので」
「健康本コーナーの前には病院なんて――」
「ああ、病院はありませんが、クリニックとマッサージ、スポーツジムも完備しておりますよ」
「そうなの!? では、あのガラスドアの向こうにいるのは――」
「タクシーですね。帰りに雨に濡れるとヤだという方がいましたので、タクシープールを備えています」
「いやいや、過剰サービスだろ」
「そう思いましたので、隣にバスターミナルを――」
「いやいや、そういうサービスじゃなくて」
「ああ、もう少し奥に行きますと、鉄道駅もあります」
「ますます、ここが何処なのか判らなくなってきた」
「ですから、本屋です」
「これでは街みたいなものじゃないか」
「ああ、そちらの参考書コーナーの横には塾が。その奥をいきますと、小中学校が……」
「高校はないのか?」
「すみません。中学校の上の階が高校です。高校なだけに――」
「笑うところなの?」
「どこが面白かったですか?」
「もういいよ。で、結局、本屋なんだよね。ここは――」
「はい。そうでしたが、衣食住のサービスを充実させたところ、大きくなり過ぎまして……自治体となりました。
ここは本屋『町』です」
〈了〉
【KAC20231】ここは本屋です 大月クマ @smurakam1978
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