第3話 面接OK、今からでもやってみる?

 地下鉄に揺られて福岡ドーム最寄り駅で下車した山鹿麻矢はバス通りをドーム寄りに歩いた交差点の角に大きな看板「輸入車ならおまかせ!」が目印なのでわかりやすかった。予備校から徒歩込みで20分かかっていないので到着が早すぎたが、父親の名刺を受付嬢の綺麗なお姉さんに差し出した。

「すみません、お邪魔します。摂津さん、いらっしゃいますか? 山鹿と申します」

「はい、山鹿様? あっ摂津部長ですね、お待ちください」


 ここはナナセ自動車の福岡支店、輸入車専門の販売ディーラーなので店内には高そうなクルマが艶やかな光沢を放っている。麻矢がわかる車種もあった。ゲームのグランツーリスモでもお馴染みのBMWのM3、今年になってスーパースポーツの展示主体になっているのかポルシェ・カレラもあった。


 商談テーブルに案内されて、しばらく待っていると短髪に黒縁メガネでワイシャツ、ブルーのネクタイの人が近づいてきた。

「えーっと、山鹿…さんでしょ」

「はっ、はい、山鹿麻矢です」

「えー、お父さんに似てるねー、いや、より整ってるし」

「摂津さんですね」

「ごめんね、申し遅れました、摂津です。お父さんには大変お世話になっています」

「すっごいクルマばっかりですねー」

「はい、輸入車の店なんで、あまり見慣れないから凄く見えるのかも」

「いやあ、カレラとかM3とか、凄すぎじゃないですか」

「おおっ、わかるの! 車種が」

「はい、ゲームで覚えました。高性能で速いクルマなんで」

「そりゃいいや、車種言えばわかるんなら仕事が早そうだし。はいっ、面接終了です」

「あ、働かせていただけるんですか?」

「こちらこそ、お願いします。今からでもやってみる? 何時に引き揚げればいい?」

「8時までなら」

「よし、それなら更衣室に行くよ」

「あっ、着替えですね、よろしくお願いします」


 ショールームからスタッフルーム横の廊下を歩いてトイレを過ぎると更衣室、そこのロッカーを開けてサロペットタイプのスーツを取り出してくれた。雨合羽タイプのレインウエアだ。

「これ、ゆったりしてるから上着を脱ぐだけで下はジーンズのまま入ると思うよ」

 摂津がブルーのサロペットを手渡してくれたので早速装着して、廊下の突き当たりのドアから外へ出た。

 そこは少しくたびれた感じのクルマが何台もあった。

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