【KAC20231】なんの用もないはずなのに本屋に立ち寄りたくなるのはなぜ。

姫川翡翠

東藤と村瀬と寄り道

東藤「なあ村瀬、帰り本屋寄りたいから付き合ってよ」

村瀬「ええけど、なんか買うん?」

東藤「うん。好きなシリーズの新刊の発売日やねん」

村瀬「そうなんや。どういう感じの内容なん?」

東藤「日常ミステリ系?」

村瀬「そんなジャンルあるん?」

東藤「あれやん、人死んだりせーへん系の探偵ミステリ。事件が起こって警察の代わりに探偵が推理する感じじゃなくて、何でも屋みたいな探偵が日常的なふわっとした依頼をコメディチックに解決する的な」

村瀬「ふーん。で、面白いの?」

東藤「面白くなかったら新刊発売日チェックしてないやろカス。文脈的にそれくらいわかるやろ。だから現文の点数低いねんお前。もっと質問内容精査しろ」

村瀬「別に普通の会話の流れやろ。なにこいつ、めっちゃキレるやん。きっしょ」

東藤「え、」

村瀬「コミュ障かよ」

東藤「なんかごめん」

村瀬「爆笑」

東藤「なにわろてんねん」

村瀬「なんで教えてくれへんのよ」

東藤「だって、お前本読まへんやん」

村瀬「そんなことないって! 全然読まへんよ!」

東藤「おいだから待て、文脈ブレイカー。頭どないなってんねん。ホンマに小学生からやり直した方がええんとちゃうか?」

村瀬「はぁ、本かよ。東藤やから漫画やと思ってたわ」

東藤「まあ、否定できんけどな。漫画も好きやし」

村瀬「東藤オタクやから」

東藤「ヲタク言うな! みんなにバレるやろ!(ヒソヒソ)」

村瀬「もうバレてるて。辻出さんも言ってはったやろ?」

東藤「誰ですか? そんな人知りませんけど?」

村瀬「嫌すぎて記憶失ってるやん。なかなかええ脳みそしてるな」

東藤「やろ?」

村瀬「言い直すわ。都合のええ脳みそやね」

東藤「やろ?」

村瀬「ポジティブかよ」

東藤「俺今日掃除あるから昇降口で待っといて」

村瀬「おん。30秒10円な」

東藤「絶妙な金額やな。突っ込みにくいわ。公衆電話かよ」

村瀬「突っ込んでるやん」

東藤「ええやろ別に」

村瀬「今日日、公衆電話なんか知ってる高校生おらんで」

東藤「言うて俺も使ったことないしな」

村瀬「使ったことないなら知らんやん」

東藤「グー○ル先生ありがとう」

村瀬「じゃあ、1分20円」

東藤「いや、変わってないし。わかりやすく毎分に直してくれてありがとう。いや、全然有難くないけど。そのぐらいの計算誰でもできるし。ていうか、そこは『1秒1万円』で『あほかお前!』で笑うところやん」

村瀬「……」

東藤「え、がち?」

村瀬「今日の僕のおやつはハーゲン○ッツやな」

東藤「がちのやつやん」

村瀬「どこの本屋行くん?」

東藤「市内のデカい本屋」

村瀬「あー、お前あそこの本屋好きやな」

東藤「新刊をちゃんと発売日からおいてくれるしな。あとだいたいの本揃ってるし」

村瀬「僕は漫画はネットで買っちゃうなぁ」

東藤「俺は電子書籍反対派やから」

村瀬「僕も電子書籍は買わへんで? 普通に物を宅配してもらう」

東藤「そんな悠長にしてたら街中の本屋全部潰れてしまうで」

村瀬「わかるけどさ、楽やもん」

東藤「そやけど」

村瀬「しかも、本屋が潰れへんように本屋に行くようにするってのも変な気せーへん?」

東藤「というと?」

村瀬「相手は企業やで? 個人が気を遣ってどうにかなるものでもないし、気を遣うもの変というか。物乞いじゃないんやから、『かわいそうだから店に来て買ってください』ってどうなん? 挙句の果てには『潰れますよ?』って若干の脅しやで? おかしいやろ。『こっちの方が魅力的ですよ!』って言って集客するべきじゃない? 要するに企業が努力するべきってこと。僕はネットでの注文に便利さとか価値を感じているからそっちで買い物してるだけやし、もし本屋での買い物に便利さとか価値を感じれば本屋行くしな」

東藤「別に本屋みんながそういうこと言ってるわけじゃないやろうけど。まあ、俺は普通に本屋好きなだけやから」

村瀬「ええんちゃう?」

東藤「じゃあ、今から村瀬に本屋の魅力を語ってあげるわ」

村瀬「結構です」

東藤「1つ目! 実物を手に取れる! 最高!」

村瀬「結構です言うてるやろ」

東藤「2つ目! 書店員が作った特設コーナーを見るだけで最新や流行を簡単に押さえられる! 最高!」

村瀬「わかったから」 

東藤「3つ目! 自分の興味を広げるチャンスがそこら中に転がっている! たくさんの本に出会える! 最高!」

村瀬「テンション高いな。何やねん。完全にオタク出てるぞ」

東藤「4つ目! 今すぐ商品が手に入る! すぐ読める! 最高!」

村瀬「まさかの東藤がオタクをスルー? 完全にキマッてるな」

東藤「5つ目! ……5つ目!」

村瀬「ネタ切れ早っ」

東藤「どう? 本屋は好きになった?」

村瀬「別に?」

東藤「なんでよ!」

村瀬「じゃあ1つ目。手に取る必要ある? 個体ごとに差があるものじゃないんやから、手に取ってみる意味が分からん。2つ目。最新や流行は別にネットでもわかるやん。むしろ現代の流行の先端はネットやろ? わざわざ書店員に教えてもらわんでもええやん。3つ目。別に興味を広げる気はない。今どき娯楽は飽和してるんやから、現状の興味の時点で手一杯やわ。4つ目。場合によっては確かにそうやけど、それこそ最新刊とかの場合は書店であれネット注文であれ一緒やろ? そんなに優位性を感じひんわ。これでいい?」

東藤「お前冷めてんね」

村瀬「お前が急に燃えてただけやアホ」

東藤「次なんやったっけ?」

村瀬「えーと、時間割は……」

東藤「日本史Bやボケ」

村瀬「知ってんねやったら訊くなや」

東藤「席戻るわ」

村瀬「じゃあ、またあとで」



村瀬「うわー! 本屋やん! 久々に来た!」

東藤「はぁ? 何でそんなにテンション高いねん」

村瀬「本がいっぱいある! なんか興奮してきた!」

東藤「……」

村瀬「お、え? この漫画新刊出てたんや! 知らんかった! 買っちゃお! あれ? これちょっと曲がってるな。これは包装が破れかけてるし、下の方からとっとこ。へぇ、こんな漫画あんねや。店員さんのポップ見てるとめっちゃ面白そうやな……こういう系あんまり読まへんけど買ってみようかな!」

東藤「なあ、村瀬」

村瀬「店員さん、ちょっと! こういう系の漫画好きなんですけど、他なんかおすすめとかあります?」

東藤「俺新刊みてくるから」

村瀬「東藤! 先に漫画買ってそこのベンチで読んでてもいい?」

東藤「……勝手にしてくれ」

村瀬「やっぱり本屋は最高!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20231】なんの用もないはずなのに本屋に立ち寄りたくなるのはなぜ。 姫川翡翠 @wataru-0919

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ