スペースダスト・シューターズ(SSS)仮題

行進12番

~プロローグ~

第1話 それは異なる次元の重なる時・前編

 観測者は目測する。


 この宇宙を――。


 観測者は記録する。


 この戦いを――。


 観測者は計算する。


 事の顛末を――。


 見るからに巨大な悪意の塊が、宇宙に存在する。本来、それはこの宇宙には存在してはならないものである。二人の観測者がそこにいた。傍目には少女にしかみえない。長い髪を結んだ双子の少女。彼女らは戦いの顛末を見届けている。それは、巨大な悪意の塊を排除せんと、戦う一人の人物の姿を――。


 まるで惑星のようなデカさをもつ巨大な悪意の塊は、ほうきのようなものを振り回している。 


 それに対し小さな小さな人類が、ぼうのようなものを掲げ、悪意の振りまく厄介を振り払っている。


 観測者は、言葉を発する。


「〇×△□が戦いを始めて、15分経過した。我はこの戦いを記録に残すことを####に同意を求める」


「####は同意する。その情報は正確に残す必要がある。%%%%に提案する。次の世代に伝えるために、情報が正しく残されることを」


「%%%%は####の意見に同意する。そして、我は観測を続ける。人類のために」


 そして、二人の観測者は口をそろえて呟く。


「「〇×△□はよくやっている。これで、人類の生存は保たれる」」


 この宇宙の人類は、『滅亡』という言葉を誰もが頭の中に思い描いていた。


 しかし、その言葉は一人の人物によって、今、砕かれようとしている。


 強大で巨大な悪意の塊は、その力を徐々に失っていく。失われていく。


 相対する、人類の希望の手によって。


 だが、その人類の希望たる人物も……、同時に力を失っていく。


 人類の希望は、戦いながらも言葉を脳裏に思い描く。


 (悪魔女め……。お前の思い通りにはさせない――ぞ……)


 徐々に徐々に、強大で巨大な悪意の塊はその姿を小さくしていき、徐々に徐々に、この宇宙からその姿を消そうとしていた。


「####は観測する。〇×△□が力尽きる」


「%%%%は記録した。我々の巨大鎧鉄人きょだいがいてつじんを起動し、この戦いを収束させる」


「####は同意する。巨大鎧鉄人よ、悪魔女を外宇宙に押し込め、『宇宙うちゅうまど』を閉じよ」


 人類よりも大きく、頼もしい背中が輝く鉄のカタマリ。それはブリキのカタマリ。だがそれは人類の叡智のカタマリだった。強大で巨大な悪意の塊ほどではないにしても、人類よりも大きな大きな存在。巨大鎧鉄人きょだいがいてつじんは隠された姿をあらわにし、〇×△□と、強大で巨大な悪意の塊の間に割って入る。


 巨大鎧鉄人は左手を大きく掲げ、弧を描くように左から右へ腕を動かす。


 それはまるで、人が家の窓を閉めるように、開いたものを閉じるように。


 だが――。


「####は観測した。宇宙の窓はじられなかった」


「%%%%は記録した。代わりに宇宙のカーテンをめられたことを」


 強大で巨大な悪意の塊は、もうそこに存在していなかった。


 正義と悪が、戦いを終えたその場所は、無という平穏が存在していた。


 そして〇×△□は動かない。意識も無い。〇×△□は、〇×△□だったモノになった。


 巨大鎧鉄人は、自分よりも小さな〇×△□を、両の手で優しく包むように、〇×△□だったモノを回収する。


「####は終了を告げる。事の顛末を記録し、次なる〇×△□へ伝えねばならない。今回は失敗したが、〇×△□のため、次こそシューターズを集結させなければならない」


「%%%%は同意する。そして、次なる〇×△□を人類が生み出さなければならない事を」


「####は観測する。宇宙のカーテンが開かれるのは、予測で百年の時を要する」


「%%%%は同意する。そのために、〇×△□と同等な生命の存在を、百年間観測し続けることを」


 かくして、人類は平和を享受きょうじゅした。時限付きで、次なる戦いまでの――。


 ――。


 ――。


 それから時は流れ、人類の存亡をかけた戦いから99年の時が過ぎていた。


 人々が住まう惑星、ナックス。


 それは、人々が生存を許された、この宇宙で唯一のセーフスペースだった。


 そんな惑星のとある大きな都市、パーレカフ。


 平和を享受し続けた人類は、平和の美味しさを食べ続け、誰もかれもが心を小太りし続けていた。


 が、しかし、全ての人類が平穏というわけでもなく、そこに格差は存在するのだ。


 パーレカフのダウンタウンの片隅――。


 そこではゴミを拾って生計を立てている人々で溢れかえっていた。


 そんなダウンタウンのスラムで生きているひとりの少年、キューム。


 彼は元々、生まれも自身の名前さえも知らない。生きている事が奇跡の、存在しているだけの生命体だった。だが、自身の名前と、会話をするための言葉だけは、同じ浮浪者で、見た目は見るからに老齢の男性、レトから教えてもらった。


 字も書けず、学も知識もない。彼は生きる事だけを知っていた。レトから教わっていた。


 生きるためにゴミを拾うボサボサ頭で小汚い少年。今日も、拾い集めたゴミクズを売っぱらいにダウンタウンのクズ屋へ持ち込む。名前も知らないクズ屋の男は、ゴミを受け取り、キュームへ食べ物のようなパンと、少しばかりのお金を渡す。


 キュームは知らない。お金というものの仕組みを。


 キュームは知ろうとしない。生きる以外の事を。


 受け取ったパンのようなものを食べながらキュームは喋る。


「おなかすいた。これ食べて、レトのところもどって、お金わたす。それから、寝る」


「よし、今日もいきてる」


 キュームは歩き続け、寝床がある場所。レトがいる場所へたどり着く。


「おお。帰ってきたか」


「ただいまレト」


「今日は貰えたか?」


「ん」


「ん-よっしよっし。キュームよ。お前は良い子じゃ」


「きょうもいいこだった」


「そうだぞ、お前は今日も良い事をしたんじゃ。さ、明日に備えて寝るんじゃぞ」


「ねる」


「おう。おやすみキューム」


 大きな都市、パーレカフ。そのスラム街での一日が、平和を享受した少年の一日が、今日も終わる。

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