異世界本屋 ~異世界で『本召喚』チートを得た私はどう生きるのか~
青猫
本編
拝啓、お父さん、お母さん。
二人とも本屋は無事に営業できていますでしょうか。
私、伊藤小百合は今、異世界にいます。
……いや、状況詳しく説明しろと言われても、理解力ゼロの私には今の状況が全く理解できませんが。
なんか、いつも通り登校していたら、足元が輝きだし?
目の前に現れた神様が「異世界!異世界!」って言ってたのでとりあえずハイハイ返事をして?
気づいたら中世っぽい町のど真ん中に突っ立っているというわけよ?
私、黒目黒髪三つ編みの見た目文学少女よ?
初期の猫委員長にも負けない花のJKなんよ?
……いや、どうしようよ?
ここはとりあえず言ってみるか?恒例のアレ。
「ステェイタァス!オォープゥン!」
大きな声で言ってみたが、何も起こらない。
周りの人たちがギョッとして距離を置いた。
どうやら、これは違うらしい。
さて、どうしようか。
とりあえず、道行く人から情報を集めようか。
そう思っていると、肩を叩かれた。
もしかして、異世界あるあるの、ボーイ・ミーツ・ガールという奴では!?
そう思って笑顔で振り向いた私を待っていたのは。
——怖ーい顔をした鎧のお兄さんでした。
「君、ちょっといいかな?」
それから二時間ぐらい。
ようやく怪しいところが無いと分かった私は無事に兵士さんの駐屯所から解放された。
「わだす、田舎から出稼ぎに来た、娘で!ついついテンションがあがっでしまっでね!」と泣きながらずっと懇願していたら、何故かさらに怪しい奴と思われて、さらに拘束時間が伸びたけど。
なんか、ポケットにカードみたいなものが入っていたので、それを見せたら兵士さんたちは疲れた様子で「わかった……もういいよ」と解放してくれたのだ。どうやら、このカードは私の身分を証明するものだったらしい。
とりあえず、ポケットに複数枚の金でできたコインがあったので、まぁ、多分お金だろうと見当つけて、ここでいい感じの宿屋を兵士さんに教えてもらった。
——次の日。
『田舎から来たのだったらまずはギルドへ行くべきだろう』という兵士さんからのありがたい教えを受けて、道行く人たちに道を聞きながら進むこと数分。
正面に広がるは西部の酒場みたいな建物。
私はなるべくナメられないようにギルドの扉を蹴飛ばして入る。
途端、ギルドの中が静かになった。
「たのも―――う!」
堂々と入ってくる私を止めるものは誰もおらず、無事私は受付に到着する。良かった。ここで変な人に絡まれるのがよくある流れって聞いたことあったから!
「あ、えと……いらっしゃいませ」
受付の人は何やら戸惑いを隠せないみたいだが、私はさっさと要件を告げる。
「田舎から来ました!兵士さんに進められてきたのですが、ここは何をする場所でしょうか!」
「え、あ、あの——」
——聞いたことをまとめる。
・ここは色々な仕事を斡旋する施設だよ!
・まずは鑑定を受けてどんな仕事が適しているかをみるよ!
・ドアは蹴って開けないでね!
——だそうだ。
「わかった!」
「わかりましたか、良かった……」
受付の人は大粒の涙を流している。
「おいおい、あいつ、説明何回目だ?」
「俺、結構前に来たけどもう10回ぐらい同じ説明受けてたぞ!?」
「まじかよ……」
「それで、鑑定を受ければいいんですね!」
「はい……では、こちらへどうぞ」
受付の人に案内されて、入ったのは部屋の真ん中に水晶がポツリと置いてある部屋。
寂しい部屋だなぁ。
「それでは、水晶に手を置いてください」
「わかりました!」
私は水晶にバンっと手を降ろす。
受付の人はビクッとなって「壊さないでくださいね!?」と悲鳴を上げている。
すると頭の中に文字が浮かび上がってきた。
本召喚Lv.1
本を召喚し、読むことができる。
召喚した本を読めば読むほどレベルが上がり、より幅広い種類の本を召喚することができるようになる。
なお、召喚した本は、召喚主の半径40メートル以上外部には持ち出せない。
例外として召喚した本を他人に貸し出す場合にのみ、三日間、その制限が外れる。
▽詳細を見る
「本召喚……?」
「それがあなたの才能です。その才能を用いて、仕事をこなしていってください」
「わかりました!」
「では」
そう言うと、受付の人はまるで私が厄介者のようにさっさと部屋から出すと、「ではご検討をお祈りします」と裏手に回っていってしまった。
私は残されたギルド内で、一人考える。
「さて、どうするか……本を武器にして戦うか?いや、でもな……」
私は本屋のお父さんがしきりに言っていたことを思い出す。
『いいか、小百合。本は、鈍器じゃない!だからそれでお友達を叩いたりしちゃダメなんだ!本は、知識を誰かと分け合うためにあるんだ。いいか!絶対に鈍——』
本は知識を誰かと分け合う為の物、か。
私は父の言葉を思い出して笑みを浮かべる。
あの後、いじめっ子のケンくんをギネスブックの角で叩きのめしたらまたお父さんに怒られたっけ。
懐かしいな……。
私は三日前にあった出来事を回想しつつ、自分の今後の方針を決める。
「よし!本屋さんになろう!私の持ってるこのスキルを誰かの役に立てるんだ!」
ということで思い立ったが吉日。
私はポケットに入っていた全財産で家を借りた。
そして本をどんどん召喚して並べていったのだが、ここで問題が生じた。
召喚できる本の種類がばかに少ない。
本のタイトルからして自己啓発やら哲学やらもう見てるだけで眠たくなる本ばっかりだ。
私はもう一度才能の説明を見ることにした。
どうやら、一度水晶に触れたらもう水晶を使わずに才能を見れるらしい。
「だから、もう来なくて大丈夫です、いやもう来ないでください、もうこの仕事辞めます、もうやだぁ……」
受付の人が泣きながらそう言っていた。
本召喚Lv.1
本を召喚し、読むことができる。
召喚した本を読めば読むほどレベルが上がり、より幅広い種類の本を召喚することができるようになる。
なお、召喚した本は、召喚主の半径40メートル以上外部には持ち出せない。
例外として召喚した本を他人に貸し出す場合にのみ、三日間、その制限が外れる。
▽詳細を見る
……詳細を見る?
私は詳細を見ることを強く念じる。すると。
本召喚Lv.1
本を召喚し、読むことができる。
召喚した本を読めば読むほどレベルが上がり、より幅広い種類の本を召喚することができるようになる。
なお、召喚した本は、召喚主の半径40メートル以上外部には持ち出せない。
例外として召喚した本を他人に貸し出す場合にのみ、三日間、その制限が外れる。
Lv.1 自己啓発、社会学、哲学(0/100)
Lv.2 政治・経済、情報工学*ロック中
Lv.3 ロック中
Lv.4 ロック中
Lv.5 ロック中
Lv.6 ロック中
Lv.7 ロック中
Lv.8 ロック中
Lv.9 ロック中
Lv.10 ロック中
……は?
私はとりあえず、そこに有った哲学っぽい感じの本を手に取り、パラパラめくる。
パラパラと最後のページまでやった後にもう一回見る。
本召喚Lv.1
本を召喚し、読むことができる。
召喚した本を読めば読むほどレベルが上がり、より幅広い種類の本を召喚することができるようになる。
なお、召喚した本は、召喚主の半径40メートル以上外部には持ち出せない。
例外として召喚した本を他人に貸し出す場合にのみ、三日間、その制限が外れる。
Lv.1 自己啓発、社会学、哲学(0/100)
Lv.2 政治・経済、情報工学*ロック中
Lv.3 ロック中
Lv.4 ロック中
Lv.5 ロック中
Lv.6 ロック中
Lv.7 ロック中
Lv.8 ロック中
Lv.9 ロック中
Lv.10 ロック中
……ねぇ、本当に言ってますかこの才能さん!
私が哲学をきっちり読めるとでも?
私この見た目で読むのジ○ンプかサンデ○かコ○コ○だよ?
自己啓発本なんて手に取るだけでめまいが起こるわ!
私はため息をついた。
あぁ、人生終わった。
本で読んだ知識チートとか、そういうの夢見てたのに……。
そう思っていると、扉が開く。
「ここでは、本を読めると表に書いてあるのだが……」
「はいはいはい、読めます読めます今なら一冊銅貨一枚!どうか呼んでってくださいどうかよぉ!」
私はここぞとばかりに最初のお客さんに縋りつく。
ここで逃したら一か月後には路上でのたれ死ぬ!
「あ、あぁ、と、とりあえず、どんな本があるか見せてくれないか?」
——これが私とハル——後に第三王子だと分かるのだが——の出会いであり、後世に語り継がれる『本屋の鈍器使い』と『万見の智将』と呼ばれる夫婦のなれそめだったそうな……。
『いいか、本は鈍器じゃない!』
『——本は鈍器じゃない!』
『——本は鈍器——』
「本は、鈍器……!」
異世界本屋 ~異世界で『本召喚』チートを得た私はどう生きるのか~ 青猫 @aoneko903
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