クマの本屋
緋色 刹那
いらっしゃいクマせ!
山奥に新しい本屋さんができたらしい。
行ってみるとログハウス風の山小屋で、看板に「クマの本屋」とあった。
「クマ専門の本屋さんってこと? 店員さんがクマの着ぐるみ被ってたりして」
扉を開くと、レジに本物のクマが立っていた。「クマの本屋」とプリントされたエプロンを着ている。
クマは私に気づき、パッと笑顔になった。
「いらっしゃいクマせ!」
「……」
無言で扉を閉めた。
冗談で言ったのに。しかも喋るし。
「よくできた着ぐるみか、ロボットであってほしいなぁ」
「ボクは着ぐるみでもロボットでもないクマよ?」
「うわぁ?!」
クマは扉を開け放ち、私を見下ろす。
デカい。二メートルは超えてる。爪も牙も鋭い。
(に、逃げなきゃ)
その時、山小屋の中からフンワリ甘い匂いが漂ってきた。
(これ……ハチミツの匂い?)
中を覗くと、大きな丸太のテーブルを囲むように、本棚がいくつも並んでいた。
クマの絵本やサケの写真集、ハチミツ料理のレシピ本など、クマに関するさまざまな本がそろっている。
「本当にクマの本屋さんなんだ……」
「そうクマ。クマの本屋さんクマ」
クマはフンスッと誇らしげに胸を張ると、柔らかい肉球で私の背を押した。
「さぁ、入るクマ! 開店記念にハチミツドリンク一杯サービスしてるクマよ!」
「えっ、ちょっ!」
私はクマに勧められるまま、丸太の椅子に座らされ、クマお手製のハチミツドリンクを振る舞われた。
恐る恐る、飲む。甘くて、どこか懐かしい味がした。
「……美味しい」
「おつまみもあるクマよ。スモークサーモンとか鮭とばとか」
帰る頃には、私はすっかり「クマの本屋」を気に入っていた。
おみやげに、昔よく読んでいたクマの絵本とハチミツドリンクのレシピ本を買った。
「また来るクマよー」
クマは名残惜しそうに、もふもふの手を振る。
次は友達を連れて来よう。最初はビックリするだろうけど、きっと気に入るはずだ。
(終わり)
クマの本屋 緋色 刹那 @kodiacbear
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