01-03 夏休み前日

 明日から、いよいよ宇宙旅行に行くことになる。学校のシミュレーターで、何度か操縦したことがある宇宙船。実際に本物の宇宙船を動かすのは初めてなのだ。それだけで、とてもわくわくしている。それに、ある程度はコンピュータが自動でやってくれるので困ることはない。手動で行う状況になるのは、危機的状況に陥ったことを意味しているので、嬉しくはない。


「おーい、夕ご飯が出来たぞー、降りて来ーい!」


 下の階から父の声がした。


「うん、分かった。今、下に行く!」


 返事をしてから、リビングへと向かった。


 リビングの扉を開けると、揚げ物の匂いがした。今日の夕ご飯は天ぷらなのかもな。特に、好きなのは揚ナスとかぼちゃだ。ナスは、サクサクで柔らかい。かぼちゃは、皮の僅かな苦さと、甘いのがマッチしていてたまらない。それに付けるのはもちろんソースでもいいのだが、ダイコンをすりおろした、天つゆがたまらない。


「今日の夕飯は、何を作ったの?」


「天ぷらではないぞ。カツ丼だ。明日は初めて宇宙船を操縦するんだ。だから、何事にも負けないように、カツにしといた」


「……天ぷら、じゃないのか」


「そう言うと思って、一応天ぷらも用意したぞ。それより話を聞いていたか?」


「やったー!」


 父の話は、全く聞かずに、ダイニングテーブルで、料理を運ばれるのを、待つことにする。


「やれやれ、困った奴だな」


 僕の父は、元軍人であった。かなりのエリートで将来をほぼ約束されていた。しかし配属されてすぐに怪我をしてしまったらしい。それも、自身の不注意のせいで。その怪我をした理由は、お祝いの席で浮かれて、酒を飲みすぎてしまい、階段から転げ落ちて腕を骨折したらしい。打ちどころが悪かったのか、全治半年の怪我をしてしまったらしい。それのせいで、結婚の話もなくなり、軍にも居づらくなり退役することにしたらしい。あっさり軍を辞めたのは、それほど、軍人になりたいと思っていなかったからだそうだ。父が、やりたかったことは、宇宙の星々を巡ることだった。それからは、中古の宇宙船を買うために、昼夜を問わずにバイトに勤しんでいたようだ。

 そして、1年後に宇宙船を買うことが出来たそうだ。


「どうだ、料理の味は?」


「うん、いつもどおりに、とてもおいしい」


「そうだろう。いつ食えるか、わからないから、よく味わうんだぞ」


「なんか、不吉な言い方だな」


「はっはっ……気にしすぎだ。ただ、お前が不安なだけだろう」


 確かにそうかもしれない。それよりも今は食べ物に集中しよう。









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