すぐそこ
白那 又太
本屋
なんだって? 近所に本屋が出来た? 珍しいね。こんなご時世に。本屋なんてものは街から姿を消した時にだけニュースになるものだとばっかり思ってたよ。
へぇ? 聞くになんの創意工夫もないただ本を集めただけの本屋に聞こえるけどね。令和の時代にある意味挑戦的というか、普通、漫画に絞るとかラノベに絞るとか何かに特化してる、謂わばその書店だけの特性があって然るべきもんだ。今頃オープンしようなんて本屋にはね。ところが聞く限りではそんな雰囲気は微塵も感じない。それどころか無駄にスペースが広い。せいぜいもって二、三年がいいとこじゃないかな。
僕は常々、本屋という物の存在意義を疑ってかかっている人間の一人だよ。紙とは言えあんなに大量の在庫を抱えて。SDGsが聞いて呆れるね。それだったら同じスペースで図書館を建てればいい。本は完全受注生産で良いぐらいだよ。手元に置いておきたいならね。今やネットで簡単に注文できるしね。
え? 店員さんがお薦めの本を教えてくれたりする? そんなの今やネットショップだってやってるよ。“あなたにおすすめ”“この本を買った人はこんなのも読んでます”ってね。たまに的外れな事をやらかすけどそれは人間に任せたって同じことだ。何、文字じゃ温かみを感じない? それこそ書物への冒涜じゃないか? 母さん。そもそも、今や電子書籍ってものがあるんだから、やっぱり僕には新しくオープンする本屋なんてものにこれっぽっちも魅力を感じないね。ああ、そう、その本を選んで貰ったんだ。珍しく母さんにしては熱が入ってるね。いや、待って、なんでそんなに行かせたいんだよ。分かった。負けたよ。じゃあ、一回だけ。物は試しに新書の匂いでも嗅いでくるとするか。
母さん、本屋ってのは良いものだよ、これを勧めてくれた店員ね、栞ちゃんというんだが、本屋にぴったりだと思うね。ああ、これからも通おうと思う。
すぐそこ 白那 又太 @sawyou
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