ミステリー風味の異世界恋愛。賢くしなやかなヒロインをお求めの方へ。

『賢いヒロイン』とひとくちで言っても、その言葉で思い浮かべるキャラクターは十人十色でしょう。
 タイトルである『ラーニャ・バスリーは忘却を知らない』が示す通り、このお話のヒロインは文字通り“忘れることができない”という特殊な血筋の女性です。
 忘却は人間の知恵などと言われることもあります。わたしたちの多くは日々の細々とした出来事を忘れ去りますが、彼女とその一族はそれが叶わず、見聞きし経験したそのすべてを記憶してしまいます。
 ゆえに、膨大な知恵の宝庫、歩く辞典として生きているという意味で『賢い』と言えるでしょう。

『忘却を知らない』という特殊な状況を考えるとネガティブな部分を多く想像してしまうものです。このお話のおもしろいところのひとつは、彼女たち『バズリー』と呼ばれる一族が、その能力を自らの盾、また剣として用いて生きてきたという歴史と現在が語られるところです。
 彼ら、また彼女たちは、その能力ゆえに恐れられも嫌われもし、それに用いられてもきました。一族として寄り添いながら歩み、最善を模索し存えている姿は、日々忘れて暮らす普通の人たちとなんらかわらない、喜怒哀楽を持つ人間です。
 このお話のヒロインであるラーニャも、自分が持つ能力を受け入れ、そして善用すべく背筋を伸ばしている、心の強い魅力的な女性として描かれていきますが、そのたたずまいの美しさだけが強調され完璧なヒロインとしてそこにあるのではなく、不完全な人間としてのアンバランスさも持ったかわいらしい人です。
 バズリーの立場ゆえに抱える問題や、渦巻く策謀。それらすべてに覚悟が決まっていたとしても、ラーニャは自身の限界をわきまえてもいます。そうした知識だけによらない賢さも、彼女が魅力的である要因であると言えます。

『ラーニャ・バスリーは忘却を知らない』というタイトルは、あらゆる知識を得たヒロイン、ラーニャが、唯一知ることができないのが『忘却』であることも示唆しています。彼女の場合、それは祝福となるのでしょうか。ヒーローであるカミルとの関係はどうなるのでしょう。今後の展開を注視したいところです。

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