ひっひの1歩
百方美人
第1話
もしかしたら、夢だったのかもしれない。
ひっひは考えた。
でも、手元に残ったこの1冊の本が、私に起こった出来事を真実だと物語っているようだった。
☆
小学4年生の
「絶対に役に立つから」と、無理矢理通わされている英会話スクールのお陰で英語は不自由なく出来る。
運動神経も良く、体育の時間は「きゃ〜!!」と歓喜の嵐。
仁美は、クラスの女子からは絶大な人気を誇っていた。
クラスではひっひと呼ばれ、その名付け親である親友の
しかし、そんな友情も時には壊れてしまうのだ。
今日はクラスの係を決める日。
体育係、生き物係、保健係…色んな係がある中、2人は一緒に図書係をしようと前もって相談していた。
ひっひは全く本に興味が無かったが、休み時間や下校中でさえ片時も本を離さない優花にとっては至福のような係だった。
最初に学級委員長が決まったが、副学級委員長が決まらない。
ひっひのクラスは引っ込み思案な子ばかりで、立候補する人なんて誰もいなかった。
追い打ちをかけるように、先生から
「委員長が男なら副は女の方がバランス取れるよな」
という謎の偏見によって、女子にプレッシャーがかかる。
長く続く沈黙。
学級委員長もどうしていいか分からず、ただ下を向いている。
「委員長なのに、無責任ね!」とひっひは心の中で思った。
ひっひは優花との約束がある。
でも、このままじゃいけない。
何度も心の葛藤と戦った。
そして、ひっひは、この沈黙を耐える事が出来ず手を挙げてしまったのだ。
「おぉ〜、長谷川。よく立候補してくれた、ありがとう。皆、副委員長は長谷川でいいか?」
と、先生が聞くと皆パラパラと拍手をした。
優花を除いて。
☆
放課後、約束を破ってしまった事に対して、少しの申し訳なさを感じつつ、いつも通り「ゆうちゃ〜ん、一緒に帰ろ!」と誘った。
しかし、優花は話しかけられた途端、急いでランドセルをしょってどこかへ行ってしまった。
一瞬見えた優花の目はほんのり赤くて、鼻をかんだようなティッシュが机の上にいくつかある。
泣く程傷付けてしまったのだろうか。
今まで、一緒に帰らない日は1度も無かった。
ひっひは、その後も教室で優花を待ち続けたが戻ってくることはなく、夕暮れが辺りをオレンジ色に染めていくだけだった。
一人の帰り道。
道横の大きなフェンスをガシャガシャと揺らしながら帰る。
いつもならお喋りして楽しいはずの帰り道が、やけに寂しく見えた。
分かれ道を過ぎた後、フェンス越しに白い毛玉のようなものが見えた。
「何だろう〜、うさぎかな?」
暗くてよく見えないが、モコモコと動く毛玉はひっひの好奇心をくすぐった。
フェンスには子ども1人が入れるような穴が空いており、ひっひはランドセルを置いて毛玉へと近付いていった。
恐る恐る近づき、よく見ると、毛玉だと思っていたものは丸まった白い猫だったのだ。
所々黒い斑点があって、ちょっと太ってる。首にはチョーカーが付いていた。
丸まった姿が豆大福に似ていて、ひっひは「豆ちゃん」と名前をつけた。
気持ち良さそうに寝ていた猫は、ひっひに気付き飛び起きた。
そして、のそのそと何処かへ歩き始めていく。
どこに行くのか気になり、ひっひは後を付いて行った。
そして、猫はある場所で止まった。
蔦まみれのこじんまりとしたお店。
看板も無く、蔦や葉っぱで覆われた外観からは何のお店なのか想像する事が出来なかった。
ひっひは入ろうか迷っていたが、探究心に背中を押されドアに手をかけた。
☆
お店の中にはびっしりと本が並んでいた。
多分、本屋さんなんだろう。
幼いながらも、ひっひはそう考えた。
薄かったり厚かったり、色が濃かったり、埃を被っていたり、色んな本がある。
照明の暖かさが心地良くて、なんだか不思議な空間だった。
歩き回っていると、奥の方から1人の男性に声をかけられた。
「お嬢ちゃん、一人で来たのかい?」
丸い眼鏡に、無造作な髪。髭が少し伸びてて、いわゆるオジサンってやつ。
ひっひは防犯教室で習ったいかのおすしを思い出し、ドアに向かって走ろうとした。
その時、
「本は好きかい?」
と聞かれた。
ひっひは本と聞いて、優花の事を1番に思い出した。
今日の出来事がぐるぐる頭をよぎり、
「友達が本好きなの」
とひっひは答える。
きっと優花ならこういう所に連れて来たら喜んでくれるかな、笑顔を見せてくれるかな、と頭の中は優花のことでいっぱいだった。
ひっひの1歩 百方美人 @Y_korarun
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