すいませ~ん悪役令嬢の「アレ」探してるんですけど~
卯月
『乙女ゲームの悪役令嬢になっていた』とか何とかってタイトルなんだけど
待ちに待っていた日がついに来た。
今日は
長年愛読してきたあの作品が書籍となって本屋にならぶ日なのだ!
お手軽に電子書籍で買ってしまっても良いのだが、せっかくの記念品だ。ちゃんと本という形になった実物を手に入れたい。
というわけでレッツゴー駅前書店。
俺はウキウキとした心地で街を歩きすすむ。
幸い今日は天気が良い。
もう三月だものな。春が来たのだ。
他人の
物語の登場人物にでもなったような気分だ。
できるものなら異世界転生というものをしてみたいものだが、まあ狙って出来るわけもない。
仕方がないから他人様が作ったものを読んですませる日々を送っている俺だった。
さあそんなこんなで本屋についたぞ。
一直線にラノベのコーナーに向かう。
男なのに女性向けのラノベコーナーに行くのは気恥ずかしいが、仕方ない。これは推しを応援する
天井から
ぎっちりと背の高い本棚に詰め込まれた背表紙たちの色がとても美麗で、野郎向けハーレムラノベとかとの差を強く感じてしまう。
……さて、どれだ?
思った以上に似たようなタイトルの作品が多い。いや多すぎる。
『乙女ゲーム』で『転生』で『悪役令嬢』ものなんだけど……、どれもこれも同じに見えてしまう。
そんな馬鹿な。俺は何年も「あの」作品を読み続けてきたんだぞ。
どうして正確なタイトルが思い出せないんだ。
えーっと、たしか「乙女ゲームの悪役令嬢に転生しましたがナントカカントカ~○○が△△だけど知るかボケ!!」みたいなタイトルだった……と思うのだが。
しかし残念なことに目の前の大きな本棚には、ほぼほぼ同じタイトルの本がたくさん並んでいるではないか。
乙女ゲーム。転生。悪役令嬢。
表紙は中世ヨーロッパ風の美女と美男のバストアップイラスト。
分からねえ……類似品が多すぎる!
「あの~すいませ~ん……」
俺は店員を呼んだ。困ったときにはプロに頼ろう。
俺の呼び声に反応して、カウンターからエプロン姿のお兄さんがやってくる。
女性ものラノベコーナーに男がいるのを見てお兄さんはピクッと一瞬妙な顔をしたが、そこはプロ。気を持ち直して営業スマイルで話しかけてくる。
「どうなさいましたか?」
「いやちょっと欲しい本のタイトルが分からなくてですね……」
「はあ、どういった内容で」
「ごく普通の日本人女性がなぜか異世界転生して、気がついたら乙女ゲームの悪役令嬢になっていて、なんやかんやあるっていう内容なんです」
「……ここら辺にあるのはだいたいそういう内容ですね」
お兄さんは
むう……、とっても面白いのに特定が困難とは
お兄さんは発想を変えたのか、別のアプローチで俺に聞いてくる。
「ヒロインの名前は
「あ、カタリナじゃないっす。そっちは全巻持ってます」
「そ、そうっすか」
お兄さんちょっと引き気味。
「じゃあもしかして男性向けのほうにありませんかね? 乙女ゲームのモブキャラが主人公の……」
「それも全巻持ってます。違います」
「オ、oh……強いですネ……」
なぜそこでエセ外国人になるんだ?
しかしこの兄さんもなかなかそっち方面に強いな。
「じゃあもしかしてスマホで検索したら分かるんじゃないですかね、どこかで投稿とかしてる作品じゃないですか?」
「ああー、ちょっとやってみます」
俺は愛用のスマホでカクヨムをひらく。
悪役令嬢タグで検索……。
ヒット数、3000件以上。
「いや多いな!? カクヨムだけで悪役令嬢3000人もいんのかよ!?」
いくら流行りものとはいえ、これじゃ書籍化作品の見分けがつかなくなるわけだ。
このままではらちが明かないと
だがお兄さんは違うことを言ってくる。
「いえお客さんそうではなくて」
「は?」
「プロフィール画面から、マイリスト的ななにかで作品名を特定できませんか?」
「あ、そっか」
俺はアホだな。こんな当たり前のことを、言われるまで気が付かなかったなんて。
「こっ、これ、これっす!」
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多分明日になったらまた忘れていると思う。
似たようなタイトルが多すぎるんだよ……。
店員のお兄さんはカウンターに引っ込んでいって、店のPCで検索をはじめる。
ふーやれやれ。
やっと買えるわ。
「あー、その本ウチで
すいませ~ん」
……俺の戦いはまだこれからだ。
すいませ~ん悪役令嬢の「アレ」探してるんですけど~ 卯月 @hirouzu3889
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