前世 現世 来世
涼
大きな声で
「
喫茶店で、突然、
「なんだよ、いきなり」
謙治は、特に驚くようなそぶりも見せなかったが、言葉だけは驚いて見せた。葵湖は、それを少し不満そうにしながら、続けた。
「輪廻転生…って信じる?『命は巡る』ってやつ」
「あー…輪廻転生か…。そうだな…、あったら、いいのかもな」
そう言う謙治の前に身を乗り出して、こそっと葵湖は言った。
「私ね、例え、前世が記憶になくたって、きっと私はこの世界であなたを探したんだと思うの」
「ふ、なんだよ、それ」
「えー、そう思わない?」
葵湖は、少しほっぺをふくらませた。それでも、葵湖は続ける。
「でもね、本当は、私が探し出したんじゃなくて、謙治が見つけてくれたんだよ」
乗り出した身を元の椅子に戻し、葵湖はにっこり微笑んだ。そんな、葵湖の言葉に、謙治は、言葉を連ね始めた。
「葵湖、憶えてるか?」
「え?」
「俺たちが、初めて逢った時のこと」
「憶えてるに決まってるじゃん!謙治、いきなり私の名前叫んだよね。高校で、自己紹介して、初めてのホームルームで。『
「そう。俺は、命が巡って、こうして、また葵湖と巡り会う為、大きな声で葵湖の名前を呼んだんだよ。葵湖に、届くように。葵湖に、見つけてもらえるように」
らしくない、謙治の言葉に、葵湖は思わず目を丸くした。謙治はいつも葵湖を子供扱いして、運命とか、奇跡とか、そんなことを言う度、クスクス笑うだけで、何も言わなかった。その謙治が、輪廻転生を、命の巡りを、ひたすら語る。葵湖にとっては、不思議でしょうがない。
「俺、前世の記憶があるんだ」
「え!?嘘!?」
「うそ」
「えーーーーー!!!!もーーーーーーーーーう!!!!何それぇーーーーーー!!!!????」
思いっきり喫茶店に葵湖の声が響き渡った。客が、一気に謙治と葵湖を見つめる。『しまった…』と、静々とお辞儀をしながら、再び葵湖は席に着いた。そして、コソコソと、葵湖は謙治に耳打ちした。
「いきなり変なジョーク言うのやめてよ!いつもからかうんだから…謙治は…」
「ごめんごめん」
謙治は、『悪い』と言う気持ちもないくせに、ごめんを2回繰り返した。でも、その言葉に、笑顔を乗せ、こう続けた。
「だけど、葵湖は、輪廻転生を信じてるんだろう?少なくとも、俺はそんな葵湖を好きになったんだ。だから、来世でも、呼ぶよ。葵湖の名前を。大きな声で。葵湖に届くように」
「謙治…。…ふ…ふふ…ふふふふふ…」
口元を両手でふさぎながら、葵湖は笑いをこらえた。その顔を見て、謙治は少し、キザすぎたかな?と、いきなり、耳まで熱くなってきた。いつまでも、笑いの止まらない葵湖に、
「そこまで、笑うことないだろ…」
窓に向かって、頬杖をついて、葵湖から視線を逸らしながら、少しすねたように謙治は呟いた。
「ふふ…ち…違うの…ふふふ…」
「何が違うんだよ。いつまでもいつまで…も…?」
葵湖の肩が、少し震えている。何だか、様子がおかしい。下を向き、両手で目元まで隠し、謙治の方を見ようとしない。
「葵湖?」
「…」
「泣いて…るのか?」
葵湖は、泣いていた。葵湖の指先から、手の甲に、雫が
「大丈夫か?葵湖?」
心配そうに謙治が葵湖の顔を覗き込む。不安そうな謙治をよそに、そっと顔を上げると、葵湖は満面の笑みでこう応えた。
「命は巡るよ。きっと、きっと、きっと…。そして、私と謙治は、前世でも、現世でも、来世でも、きっと、きっと、きっと、出逢っていたし、こうして出逢ったし、そして、出逢うの」
ポロポロ、大粒の涙を、こんな何でもない日に、こんな何の記念日でもない日に、只、普通に、デートをしている、何処にでもある喫茶店で、2人が出逢えたことを、葵湖は本当に幸せに思った。そして、謙治もまた、そう思った。
「謙治、また、来世でも私の名前を呼んでね。大きな声で。とってもとっても大きな声で。記憶を失くした来世に希望があるとしたら、あなたのその存在だけ、だから…」
涙声で、震えながら、それでも嬉しそうに、葵湖は謙治を見つめ、そう言った。そして、その葵湖のくしゃくしゃの笑顔を見つめながら、謙治はしみじみ…、
「命って、不思議だな。どうして、こんな風に出逢えたことが、当たり前に思えるんだろう?輪廻転生は、きっと本当にあるんだろうな」
「…うん。そうだね」
1人では生きてゆけない。
あなた以外とでは、愛も知れない。
どうか、僕の声に耳を澄まして。
どうか、僕を強く包んで。
そして、来世でも、僕を見つけて。
あなたと生きたい。
前世 現世 来世 涼 @m-amiya
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