どーぞ同盟

三屋城衣智子

どーぞ同盟

 『星降る夜にうたってよ』という絶版本があるかもしれない、と聞いて私は新規開拓もかね、紹介された古本屋さんを訪れていました。


 そこは令和の今なお、時を止めたかのような薄汚れた看板と、けれどきちんと整頓された店前、拭き上げられたピカピカのガラス戸とあいまって、古いようで新しく、けれどノスタルジーたっぷりの店構えです。


 色とりどりの背表紙、紙とインクの得も言われぬほのかな匂い。

 天へとのぼらんとする本棚は、まるで雲へと手を伸ばす高層ビル。

 異次元へといざなってくれるその場所を、私はいたく気に入っているのです。


「ほ、ほ……」


 自分にだけ聞こえる小さな声でお目当てのものを探します。


 『干された洗濯ねこ』まできました、あともうちょっと。


「あ、」


「「「「あった」」」」


 見つけた背表紙にタッチした指は四本。

 私が伸ばした指は、右手にくっついた人差し指一つっきりです。

 周りを見渡せば、私と同じく探し求めていたのか、キラキラと輝きに満ち満ちた六つの目がありました。

 つまりは、私の他にもう三人ほど、この本を偶然にも探していた人物がいたようです。


 私たちは誰からともなく顔を見合わせて、喉から手が出るほど欲しかったその本の背表紙から、そっと指をどけました。


 一番右の人が、


「じゃあ俺が」


 と指を戻し、次いでその人の左後ろ隣が、


「いや、僕が」


 とやはり指を戻し、さらに私の右後ろ隣が、


「それなら私が」


 とやっぱり指を戻し、私も負けてなるものかと、


「いいえ、私が」


 同じく指を戻しながら言いました。

 途端。


「「「どーぞ」」」


 私以外の声が、重なります。

 お互いがお互いを見返した御三方は、それぞれニヤリ。


 私はそれがなんだか悔しくて。

 言おうかどうしようか迷っていた言葉を、言い放ちました。


「これは私が買います」


 そして続けて言いました。


「そしてお貸ししますから、あなた方の蔵書を、貸してくださいませんか?」


 と。

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どーぞ同盟 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko

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