第2話 幸運が訪れる
丘の上が白くぼんやりと光っていました。
「なんだろうね…」
僕は車を道端に停めながら言いました。
対向車も後ろからくる車もあまりないですから、ちょっと寄せただけで。
「何かな…変だよね…」
奥さん、窓を開けて見ています。
「あの丘の向こうにサッカー場とかそうゆうのがあるんじゃない…」
草津にはサッカーチームがあることを僕は知っていましたから、そんなことを考えました。
「でもスタジアムの灯りとちがうね…」
白いなにかが山を覆っている感じです。
街やスタジアムの灯りが雲に反射しているのとは明らかに違っていました。
「ちょっと降りてみよう…」
心配なので娘も抱っこして車を降りました。
十月です、草津と軽井沢の間です、夜です。
でもそんなに寒くなかった記憶があります。
その白いぼんやりとした光のほうに向かって農道がありました。
その道を僕ら3人は歩きました。
まだいくぶんか小雨が降っていました。
ですが雲があまりなく、その合間から星も見えました。
山中ですのでね、よく星が見えます。
「なんだろう…なにかな…」
車にちょっともどりヘッドライトを消します。
周りはさらに暗くなり、その白い光はより鮮明になりました。
よく見えると…よく見ると…
「パパ…パパ…」
奥さんが少し興奮気味に言いました。
「あれ…色がない…? 」
「色…」
「あれ…あれ…ちょっと…」
色…白だけに見えたけれど…
赤いのもあるか…
「なんかあれってさ…」
奥さん、僕の肩をつかんでます。
「まるくなってない…? 弧になってない…? 」
え…そうなの…?
弧になってる…?
よく見ると…
その白い光の上部は弧に、半円になっており、その縁には色があるように見えました。
目を慣らすため僕らはたたずみました。
弧のある光…それって…
「赤…黄色…信じられない…夜だよ、夜だよ、あやみさん…」
夜です、太陽はありません。
でも目の前にあるのは、
弧になっている色のついた光の曲線です。
「パパ…」
「うん…」
「虹だよね…」
「うん…」
夜の虹です。
車に急いで戻りデジカメを取り出しました。
バッテリーが最近すぐに切れてしまうのです。
予備の電源もありません。
「もってほしいな…バッテリー…」
僕は祈るような気持ちでシャッターを押しました。
確認します。
とりあえず撮れています。
もう一度。
撮れていました。
さらにもう一度。
ダメでした、画像の確認もできません。
「パパ、撮れた…? 」
「2枚だけ…」
「よかった…」
本当によかった、最後の2枚、助かった。
でもどうして夜に虹が…
光が必要なはずです。
どこに光が…?
振り返ります。
山の上、雲の切れ間に満月に近い月がありました。
「あの光…? 」
奥さんが僕に訊きました。
「それしかないよね…」
それしかない…
幻想的な風景に僕ら夫婦と抱っこされた娘はしばらくの間じっと鑑賞していました。
数台の車が通りましたがどれも素通りして行きます。
「もったいないな…」
と話していました。
虹は綺麗でもありましたが、不思議な神秘的な夜景を造っていました。
雲の間にある月、対面の夜の虹。
暗い静かな夜に思いがけない素敵な光景を見ることができました。
*****
月虹というらしいです。
光が弱く白いので白虹ともいうらしいです。
まれな現象のようで、ハワイでは見ると幸せが訪れるといわれているようです。
ウィキからです、後で知りました。
朝からの小雨、満月に近い月、途切れた雲、暗い夜道、開けた場所、寝ていなかった奥さん、偶然が重なって見ることができました。
その後、実は土地を良い方角、いい値段で見つけることができました。
これも取り壊し中の家屋を偶然義母が見つけ、業者に訊き、早めに手を打ったからでした。
僕ら夫婦は
「きっとあの月虹のおかげだよね」
と言っています。
幸運が訪れるのですからね。
まだベビー用品メーカーにいたとき、退職される方からメールがきたりします。
会社を辞められるのですから一大決心ですよね。
思いがけず僕も経験してしまいましたが…
そういったメールに僕は月虹の画像を添付して応援メール、お別れメールを返信していました。
「月虹といいます。
ハワイでは見たものに
幸運がおとずれるといわれているそうです。
我が家もこれを偶然みたときから幸運がきました。
○○さんに送ります。
幸運が来るといいですね」
こんな感じで…
この文章を読んだ方に幸運が来るといいな…
月虹をテーマにいずれSFを書こうと思うのですが、今回なエッセイ、ドキュメントです。
了
一度だけ見た幻想的な風景のこと @J2130
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