活字を食う女

ユウグレムシ

 

 最近、“AIが書いた小説だけを集めた本屋”とかいうものができたそうだ。もっともらしく意味の通る文章をいくらでも出力し続けられるという、AI小説アプリの性能がどんどん人間の作家顔負けになっているのは知っていたが、AIが書いた作品だけで商売すら始まっていたとは、姉貴に教えられるまで気づかなかった。


 うちの姉は、いわゆる“活字中毒”だ。小説に限らず、雑誌でも、漫画でも、辞書でも、新聞の折り込みチラシでも、飲食店のメニュー表でも、役所や病院の張り紙でも、街や駅の電光掲示板でも、文章と見れば必ず目を通す。そして読み通すと、同じ文章には二度と興味を示さない。紙の本も電子書籍も毎月毎月たくさん読むが、読んだら古紙の回収日にまとめて捨てる。あるいはどくリストから消去する。書棚に整頓しておくとか、クラウドストレージに保存しておくとかいったことは一切しない。それでいて、ドラマ化や映画化で活字作品がニュースの話題に上るたび、「これもう読んだ」「これ知ってるやつ」と言うのだ。

 どんな本だったか訊いてみると、概要をスラスラしゃべり出す。でも、「面白かった」「つまらなかった」以外の感想はない。お気に入りのジャンルもない。好きな作家もいない。ただ、なるべくたくさん読みたくて、いつも文章に飢えている。あーおいしかった。次!次!……まるで活字を食ってるみたいだ。姉貴は貪るかのごとくAI小説を読み漁っている。


 読みやすいよう、伝わりやすいよう、推敲に推敲を重ねたうえで読み手を唸らせるのが作家さん・ライターさん達の仕事だろうと思うが、そういう書き方では、どんなに筆が速くても、文章を世に出すまでにいちいち時間がかかりすぎる。うちの姉貴みたいな需要には、無意味な物語をランダムに爆速で量産しまくるAI本屋がぴったりだ。AIはスランプに陥らないし、叩かれようが無視されようが拗ねないし、「せっかく工夫を凝らしたのに、真面目に読んでくれない!!」なんて、誰も憤慨したりせずに済むしな。

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