第3話
「というわけで、新入部員が入った。自己紹介よろしく」
「えっと、
放課後に御堂に促されて、遠慮気味に立っていた銀髪の彼女は恐る恐る口を開いた。葉月鈴音と名乗った彼女は、その美貌で皆の注目を奪う。それは御堂だけでなく、辰巳もまた同様。
「諒!! あんた、まさか浮気!?」
「違うって、単に可愛いと思っただけだよ!」
ちょっとした修羅場が横で繰り広げられているが、御堂は意に介さない。所詮ただのいちゃつき、すぐに勝手に仲直りして、イチャついているところを見せつけてくるはずだ。
「諒、浮気は絶対ダメだからね? わかった?」
「もちろん、俺はみどりだけを見るから」
(それ見たことか……)
予想された反応に思わずため息をついてしまう。
「ところで、オカルト研究部ってふだんは何をするんですか?」
「えっと……オカルトに関することを自分で調べて、それをまとめて発表するとかじゃないか?」
葉月の疑問は最もだが、御堂自身もよく分かっていないので適当に答えるしかない。なんとなく楽しそうだから、と思って始めた部活なので特に計画はない。ただ、オカルト愛好家が始めた酔狂に過ぎないのだ。
(まぁ、スレを立てたり、オカルト関連のことを書くブログをつくったりすればいいんじゃないか……?)
「発表って、まさかオカルトスレに上げろとか言うんじゃないでしょうね?」
「……方法の一つとして検討するのはアリだと思う」
梓はあきれたと言わんばかりの顔をしている。そんなに悪いアイデアだと思わなかったが、梓からすれば違うらしい。馬鹿にされた気がして心底むかつくが、実際計画性がない自分が悪いので反論することはできない。
「とりあえず、定期的に部誌を発行して成果報告をすることが目標ね。それでいい?」
「……ああ、それがいいな」
結局、彼女に比較的にまともな意見を出してもらい、それを採用することにした。このアイデアに教師は難色を示しつつも許可をもらうことができたので、晴れてオカルト研究部が発足した。部長(名誉)は御堂になり、副部長(実質部長)は梓になった。この上下関係は昔から変わらない。
学校が始まって数週間が経過した。始業当時は教室の空気も慌ただしかったが、みんな学校に慣れたせいか少しずつ落ち着いていった。高校になると授業のスピードは速くなり、難易度は格段に上昇する。オカルト研究部のメンバーも悪戦苦闘しながら、学校になじんでいるようだ。
「悪戦苦闘しているのは御堂だけだぞ」
辰巳の言葉が彼の語りの邪魔をした。そう、このメンバーで一番頭が悪いのは他ならぬ御堂。
「諒、そんなストレートに言わなくても」
「おまえ、実際入学テスト悪かっただろ」
「そ……それは」
何を隠そう、御堂は入学直後に行われたテストでは150人中137位。下から数えたほうが明らかに早いレベル。最後の追い込みだけで入って、合格が決まればまた遊び出す性格なのだから当然の結果とも言える。
「授業中くらい起きていろよ。おまえ、地頭はいいんだからさ。実際、最後の追い込みだけでこの高校に入れたんだから」
「いや、睡眠が足りていないんだ。昨日はアニメとゲームで忙しかったから」
「どっちも一晩でやろうとするからだ。今日はアニメ、明日はゲームって決めてやるべきだ」
「何も言い返せねぇ……」
決して成績優秀ではないものの、決して落ちこぼれではない。辰巳の学力はTHE平均といったあたりだが、それでも御堂にとっては高い壁なのだ。
「幸い、隣に葉月さんがいるんだから教えてもらえよ」
そして、隣にいる葉月はそのテストで5位。圧倒的格差、偏差値のギャップで風邪をひいてしまいそうだ。それにしても容姿端麗・学業優秀なんてアニメのキャラだけだと思っていたので、現実にもいることに驚いた。ふと彼女を見ると、先ほどの授業の復習をしている。頭がいい人は無駄な時間を作らない、つくづくそう感じる。
「いや、レベルが違いすぎるだろ。教えてもらうなら、おまえくらいの中途半端な奴のほうがちょうどいい」
「祐貴、おまえはホントに……」
彼の口の悪さは知っていることなので、辰巳は今さらツッコむ真似はしない。別に御堂も本気で言っているわけではないし、むしろ軽口をたたくのは仲がいい証拠だ。
「梓なら教えてくれるだろ?」
「いやだよ、確かに教えてくれるだろうけど馬鹿にされそうだし」
それに梓も正直レベルが違う。今回のテストでも学年3位を取っている。幼なじみなのにどうしてここまで差がついたのか。
「梓も素直じゃないだけなんだ、本心では教えたいと思ってるはずだよ」
「ツンデレって言いたいのか、そんなわけないだろ。それにツンデレはアニメのなかで十分だ」
「やれやれ、こっちもか……」
最後に辰巳が呟いた言葉は、幸運にも御堂には聞こえなかった。
Be dictator; be dominator of cognition 式松叶人 @Sito1024
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